ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること

ヒト

2019.12.24 TUE.

これからのファッション業界に期待すること。

ユナイテッドアローズの社長を退任され、現在、公益財団法人 日本服飾文化振興財団の理事長を務めている重松理さん。長年にわたりファッション文化の振興に尽力してきた氏は、今なおファッションに熱い視線を注ぎます。時代が激しく変化し多様化が進む今、日本のファッションの現在地はどこで、これからどこに向かうべきか。未来に向けてのご意見を伺いました。

Photo_Yuhki Yamamoto
Text_Jun Namekata(The VOICE)

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―今年、ユナイテッドアローズは創業30周年を迎えました。ファッションという文化の振興に少なからず貢献したところはあるのではないかと思います。あらためて振り返ってみていかがですか?

ユナイテッドアローズがスタートした30年前は、ちょうど原宿~渋谷地区が若者のファッションの中心地として全国的に認知されはじめた頃です。そして、ファッションというものが一般的にすべての人に対して向けられる土壌ができたのも、その頃だったんじゃないかと思います。今でいうセレクトショップ、当時はインポートショップなんて呼んでいましたが、そういうものができ始めたのも80年代後半ですね。

そして、その次のステップとして、新しい物を提案していかなければと私は思ったんです。ファッションというものが根付いたお客様が、次に求めるものを提供することが必要だと。それはファッションだけじゃなくライフスタイル全般として。そういった想いから、ユナイテッドアローズはオープンしました。当時のショップは欧米の流行をいち早く持ってくるということが主なミッションでしたが、私はそれをもっとしっかりかみくだいて理解し、洗練させて、クオリティの高いものとして店頭に並べたいと思ったんですね。良いもの、クオリティの高いものをセレクトするということに加えて、時代にあったおもしろいもの。人を楽しませるようなものを提供する。そうやってユナイテッドアローズ1号店は誕生し、その延長線上にあるのが今だと思っています。

ユナイテッドアローズは、その価値観をぶらすことなく、その時代にあった形でアウトプットする表現を変えてきた。品揃えに対しても、接客に対しても、サービスに対しても、創業から一貫して変わらないというのが、自分の想いです。時代が変わってお店の役割そのものが随分変わってきましたから同じものさしでは測れませんが、当時から今に至るまで、ある程度、信頼感の高い衣料品店だという感覚は持っていただいているのかなと思っています。

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―時代に柔軟に対応しながら、ファッションの文化の礎を築いてきた。

そうですね。そういった使命感のようなものは持ちながらやってきたと思います。

―ユナイテッドアローズの社長を退任されたあと、2014年に日本服飾文化振興財団を立ち上げられましたが、そこにはどういった想いがあったのでしょうか?

それは個人的な理由なんですが、退任を機会に次の仕事として何かしなければならないと思ったんです。ただ、新しいものを海外から持ってくるということはもう皆さんやっているから、そういうことじゃない。じゃあ何ができるかと考えた時、これからファッションビジネスに携わろうと思う若い世代が、ファッションをビジネスとして営んでいく上で何かヒントになるようなものをアーカイブしたいと思ったのが大きなところです。ガーメントから始まり、書籍、ファブリック、資料などを蓄積し、今は一般公開もしています。まあ、この業界が私を育ててくれたので、その恩返しとして、次の世代が活用できるような資料を残したいと思ったわけです。

―ルーツや源流に基づき、ファッションを進化させる。それはユナイテッドアローズが掲げる「トラッドマインド」にも即していますね。

中には華美なものもありますが、一過性のものはありません。物質的に長く使用し続けられてきたものの一部をアーカイブとして所蔵していると思っている。ちょっと変わったものでもそう。そのジャンルが確立される前のものであったりと、絶対的にブラしてはいけない要素を持ったものを集めています。

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―一般公開以外の活動もされているのでしょうか?

アーカイブを使ったセミナーや展覧会も開催していますし、毎年デザイナーコンペティションも開催し、優勝者にはその人の活動に必要な資金を援助するサポートもしています。

―時代は刻一刻と変化し、業界のあり方も大きく変化しています。その点についてはどのように見ていらっしゃいますか?

1945年以降の日本のファッションは、戦後の中でアメリカの影響を受けながら、そのルーツであるイギリスを中心としたヨーロッパ各国の文化を取り入れることでした。手に入ること自体が貴重でしたから。その次の世代からは、東京発信のファッションスタイルが裏原を中心に出はじめてきた。そして今、また東京の若いファッションは独自なものを生み出しつつあって、それが世界的にも高く評価される状況にまでなった。当然、我々世代よりも一歩進んだファッションに対するアプローチですから、それを継続して、さらに海外に影響を与えられる存在になって欲しいと思っています。まだまだステップアップする可能性は十分にありますね。

―ファッションビジネスという視点からはいかがでしょうか?

今は非常に選択肢が広く、趣向が幅広くなって、多様化が進む時代です。でも必ず潮流や流行というものはある。ファッションは常に変わっていかないと新しい需要が喚起できないですから、そこは信じて続けていかなければいけないところだと思っていますし、これからまた新たな仕掛けが出てくるだろうと思っています。むしろ、それを縦横無尽にコントロールする人が、これからのファッションの潮流を作る人なんだと思います。

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―ファッションの力や魅力、価値というのもそこにありそうですね。時代を動かせるポテンシャルのあるものだと。

やっぱり人が生活する上で元気をもらえるすごく数少ない要素だと思います。衣食住とはいいますが、「衣」が一番先に来ているのは興味深い。それくらい重要なファクターだと思うんです。ファッションはなかなかビジネスにつながらないな、なんて言っていたのが懐かしいね、なんていうような時代が必ずくると思っています。

―これからファッションに携わる人たちがするべきことはどんなことだと思われますか?

大震災の時にみなさんも十分承知したと思うのですが、洋服の持つ力っていうのはやっぱりすごいんです。自分の気に入ったものを買うことで癒されたり、楽しくなったりする。身につけて快適感と納得感と満足感が得られるものはほかになかなかないので、そこは重要視して考えていただきたいなと思います。これは売れないんじゃないかとか、あまり変にビジネスのことばかりを考えないで、直感を信じ、自分がいいと思うものを出していけば、必ず共感してくれる人はいる。頭からビジネスとしてファッションを捌いて欲しくないなって思いますね。情熱の捌け口、ぶつけるところだと思っていますから。

そして、これからは日本独自の価値観に裏付けられたものをアウトプットしていくことが大事だと思う。世界的にもそれが求められていますから。

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―重松さんが長年愛用しているものをご紹介いただきたいのですが。

まずはバランタインカシミアのニット。カシミアニットとしては最高峰だと思いますね。これを購入したのは41年前。それでも糸が痩せないし、毛玉ひとつない。もちろんカシミアニットは良質な素材ありきのことでその年その年で変わりますので、今もこれと同等のものがあるかはわかりませんが、少なくともこれに関しては本当に凄い。驚きです。

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またジョンスメドレーのニットも私にとってなくてはならない定番。これみたいなものは他にもたくさんありますが、やっぱりこれが1番。どんなファッションにも対応できますし、クオリティが高いから朽ちないんです。

本当はここに日本のものも入れたかったのですが、残念ながらまだない。これから生まれてくることを期待します。

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―最後に、あらためてメッセージをお願いいたします。

ひとつは、なんにでも興味を持ってください。社会の事象にとても敏感になってもらいたい。それも「美」というくくりの社会の事象に。美術館の新しい展覧会は必ずチェックするとか、新しい建築ができたら誰よりも早く見にいくとか。そういったことですね。そして、マルチマーケティングとして、すべてに興味を持ってもらいたい。アンテナを敏感に。その先にさまざまなアイデアがあると思います。

PROFILE

重松 理

1949年生まれ、神奈川県逗子市出身。1989年、株式会社ワールドとの共同出資により、株式会社ユナイテッドアローズを設立、代表取締役社長に就任すると、東京・渋谷に1号店をオープン。2014年6月、取締役会長を退任し名誉会長に就任。現在は日本服飾文化振興財団の代表理事を務めながら、「日本の一つの真正なる美の基準を次世代に伝承し継承を促すこと」を理念としたお店『順理庵』をプロデュースしている。

JP

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