ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること

モノ

2019.10.17 THU.

カモシタ ユナイテッドアローズが手がける、 新たなカプセルコレクションの全貌。

イタリアで13代、300年以上に渡って高品質な紳士服地を製造している「ヴィターレ・バルベリス・カノニコ(以下VBC)」。そのイタリア最古の生地メーカーと、ユナイテッドアローズ(以下UA)のクリエイティブアドヴァイザー鴨志田康人が手がける「カモシタ ユナイテッドアローズ」によるカプセルコレクション“Between”が、ミラノファッションウィーク期間中の6月16日に発表されました。世界限定となる4種のファブリックを用いた全8ピースのコレクションは、MR PORTERとユナイテッドアローズ 原宿本店のみで展開される。さらに、コーディネートにはイギリスの名店「アンダーソン&シェパード」のアクセサリーやセーターなどを使用し、その世界観を完成させたスペシャルなプロジェクトとなっています。ここでは、VBCのミラノショールームでのローンチパーティ時に収録した鴨志田康人のインタビューとともにその魅力に迫ります。

Photos_Shunya Arai(YARD)
Text_Kai Tokuhara

―まず、VBCの生地に対して鴨志田さんが抱いている印象からうかがえますか?

鴨志田:とにかく誠実で真面目な生地の作り手で、エグゼクティブのための正統派、という印象ですね。イタリア・ビエラには数多くの生地メーカーが存在する中で、VBCの生地というのはイタリア的な柔らかさよりも英国製に近いしっかりとした質感、風合いを備えているところが特徴だと感じています。

―ユナイテッドアローズとしてはかなり長くお付き合いされているそうですね。

鴨志田:ベーシックなネイビーからストライプ、チェック、フランネルまで、UAのドレスラインにおいて正統派の生地といえばバルベリスと言えるくらい、長く使わせていただいています。お付き合いは30年近くになると思いますし、以前は工場に入らせていただいたこともあります。

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―そんな関係性がある中で、今回カモシタ ユナイテッドアローズとのカプセルコレクションはどのようなきっかけで実現に至ったのでしょうか?

鴨志田:UAのドレスラインで頻繁に使わせていただきながらも、これまでバルベリスの生地はカモシタのコレクションには少し真面目すぎるかなというイメージを持っていました。しかし、VBCの代表的な生地のひとつである正統派の「グレーフランネル」をカモシタ風にツイストすることができたら他にはない非常に面白いコレクションになるのではないかと思い、実際にビエラに赴いてテキスタイルデザイナーの方とディスカッションをさせていただいたのが始まりです。

―カプセルコレクションのためにオリジナル生地を作られたということでしょうか。

鴨志田:はい、完全なオリジナル生地ですね。従来のグレーフランネルとは微妙な違いではあるのですが、今回使っている生地は糸の色味が少しだけグリーンがかっています。本来VBCのグレーというのはやや青味があって都会的なイメージなんですけれど、そこを少しだけ野暮ったく、温もりのあるカントリーテイストに持っていきたかったんです。

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―構想段階から、この発表に至るまでどれくらいの期間を要しましたか?

鴨志田:実際に何度もイタリアの本社、ファクトリーに足を運んでミーティングや生地サンプルのチェックを重ねながら、3年ほどかかりましたね。

―仕上がりを見て、鴨志田さんご自身としてはどのようなところにこれまでのカモシタ ユナイテッドアローズと違った魅力があると実感されていますか?

鴨志田: 従来のカモシタは色で遊んだスタイリングが多いのですが、このカプセルコレクションに関してはバルベリスのグレーフランネルを使わせていただいたことでよりフォーマル寄りのシックなテイストに仕上がっています。グレーフランネルは昔からジェントルマンのステータスの象徴。そのあり方というものをカモシタなりに現代的なムードでうまく表現することができたのではないでしょうか。

―今回のカプセルコレクションにはスタイリングアイテムの提供としてロンドンのセレクトショップ「アンダーソン&シェパード」も携わっていますが、そこは鴨志田さんたってのリクエストだったそうですね。

アンダーソン&シェパードには、「今回バルベリスとこういうコラボレーションをやるのでスタイリングを組むのに何かしら協力してもらえないか」と自分からオファーさせていただきました。オーナーと何度もお会いするなどお互いをよく知る間柄だったこともあって、すぐに快諾いただき、カモシタとバルベリス、アンダーソン&シェパードによるトリプルコラボという形になりました。自分のコレクションだけで完結させることももちろん可能だったのですが、こういうスペシャルな機会だからこそ日本とイタリアのコラボというだけでなくイギリスのテイストもプラスさせたかったんです。

―ここからはカプセルコレクションの各アイテムとルックについて、より詳しくお聞きできますでしょうか。

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鴨志田:まずコートとスーツは、30年代風のゴージャスなラペル幅を採用し、肩幅もやや広めでドロップ気味です。右のコートのインに合わせたダブルブレストジャケットはあえて4つボタンに。6ボタンの重厚なダブルブレストジャケットをベースにしつつ、よりカジュアルかつ軽やかに見せるためにそのようなアレンジを施しました。それぞれ中に合わせたセーターはアンダーソン&シェパードで、グレーフランネルのコレクションに合う差し色を注文して作っていただきました。

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鴨志田:こちらの2アイテムは、ハウンドトゥース(右/バルカラーコート)とウィンドウペーン(左/ドリズラージャケット)の生地に特殊なラミネート加工を施すことで撥水性と通気性を兼ね備えたバルベリスでも人気の高い機能素材アース、ウィンド&ファイアーを用いています。さらに、エクスクルーシブのファブリックに合わせたカスタマイズの加工を施しています。こちらもアンダーソン&シェパードのセーターやストールを差し色としてコーディネート。すべてのアイテム、スタイリングに言えることですが、バルベリス特有のグレーフランネルを極力ミニマルに見せることで、むしろ素材そのものの強さを表現できたのではないかと感じています。

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3ミラノでのカプセルコレクション発表と時を同じくして、フィレンツェのピッティ宮殿では1989年から30年に渡るメンズファッションのヒストリーにピッティ・ウオモ独自の視点でフォーカスを当てた「ROMANZO BREVE DI MODA MASCHILE – A SHORT NOVEL ON MEN’S FASHION」が開催。ジョルジオ アルマーニやロメオ ジリなどと並んでカモシタ ユナイテッドアローズのアーカイブコレクションが展示された。長年に渡って出展し続けているピッティ・ウオモでの功績が讃えられた形だ。

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―今回のカプセルコレクションを「ミラノで発表する」ことに対して、やはりイタリアに造詣深い鴨志田さんとしては特別なモチベーションがあったのでしょうか?

鴨志田:そうですね。こうしてミラノコレクション期間に合わせて発表するということは、世界中のバイヤーの方々に見ていただけるチャンスがありますから、良いプレゼンテーションでアピールしたいなという思いは強かったですね。とはいえ、自分にやれることは大抵決まっていますから、気負いすぎず、普段通りのスタンスで好きな世界観を表現することを心がけました。

―クラシックなのに新鮮。そこが狙いだったのでしょうか。

鴨志田:まさにそうですね。今回のカプセルコレクションのテーマは“Between”。単なるクラシック回帰ではなく、あるいはその逆のモダン志向でもなく、過去と未来、クラシックとモード、そして日本とイタリアとイギリスの中間的なテイストを自分らしく表現したいなと思いました。今回チャレンジしたグレーとグリーンの中間色も、まさにそのテーマにマッチした色味になってくれていますね。

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―イタリアにもイギリスにも昔から根付くオーセンティシズムというものがあると思いますが、それぞれが絶妙にミックスされている印象を受けました。

鴨志田:私はおいしいとこ取りが好きと言うか(笑)、生粋のものよりも何かしらがミックスされてスパイスが効いている服作りこそが自分のブランドらしさなのかなと。いろんな国のテイストや時代感を自分の培ってきた引き出しから抽出しながらトラディショナルなものをどうアレンジしていくか。そこが常に自分のもの作りの芯にあるように思います。

―そのミックス感覚はどのように培って来られたのでしょうか?

鴨志田:それこそ30年以上このファッション業界に関わりながら、アイビーからモードまでいろんな時代を通り、経験し、いろんな海外の都市を旅しながら自然と身についたものじゃないですかね。蓄積された中から、「これおいしいな」とか、「あの時のこれ良かったな」といったようにその都度自分の中で引っかかりのあるテイストをピックアップして現代にフィットさせていく作業は楽しみ以外の何物でもないですし、常に次に向かうパッションが湧いてきますね。それはトレンドを追いかけることとはまた違って、あくまで自然体の自分から生まれてくるものだと思っています。

―このカプセルコレクションのみならず、カモシタ ユナイテッドアローズのコレクション全体に息づいているUAのエッセンスがあるとしたらどういうところですか?

鴨志田:トラッドマインドじゃないでしょうか。そしてそれを常に時代に合ったテイストで表現するためのクオリティとタイムレスな感覚。「トラディショナル」や「トラッド」を頑なに決まりきったスタイルで表現するのではなく、いかに応用してアップデートしていくかはこれからもカモシタ ユナイテッドアローズの普遍的なテーマであり続けます。

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PROFILE

鴨志田康人

1957年生まれ。ユナイテッドアローズの創業に参画し、メンズクロージングの企画・バイイングなどを担当。2007年には自身のブランド〈Camoshita UNITED ARROWS〉を立ち上げる。現在、クリエイティブ・アドヴァイザーとして、ユナイテッドアローズのバイイング、商品企画など幅広く活動している。

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