
ヒト
2021.05.06 THU.
時代の変化を恐れない。わたしたちがユナイテッドアローズで働くということ。
コロナ禍によって、みんなで集まって顔を合わせることがなかなか難しいこのご時世。多くの企業や学校がそうであったように、ユナイテッドアローズ社も内定式や入社式を中止し、リモートに切り替えた新人研修を行ってきました。この一年で教育のスタイルはどう変わり、それを受けた新入社員たちは日々どんな気持ちで働いているのか。新卒・中途入社の研修および育成を担当している相原 正幸さんと、〈ユナイテッドアローズ グリーンレーベル リラクシング〉ららぽーと富士見店で働く入社2年目の佃 優希さんに話を聞きました。
Photo:Kousuke Matsuki
Text:Momoka Oba
自分自身も一販売員であることを忘れず、同じ目線に立った指導を。
ー相原さんは2007年にユナイテッドアローズ社に入社後、さまざまなショップで販売の経験を積んできました。3年前に現場を離れて教育担当となったことで、ご自身の心境に変化はありましたか?
相原:これまでお客さまと直接向き合っていたのに対して、自分が教育するスタッフを通じて間接的に関わるようになったのが最大の違いですね。正直、異動してすぐの頃は「これはお客さまに届いているのだろうか?」と考えてしまうことがあったのですが、続けているうちに「研修も接客の延長線上にある」と考えられるようになりました。
ー大変だと感じるのはどんなときでしょう。
相原:ぼくたちは研修に来てくれたメンバーと継続的に関わっていくわけではないので、一回一回の数時間でしっかりメッセージを伝えなくてはならないのが難しいですね。自分が関わったスタッフがお店で活躍しているという話を後から聞くと「ちゃんと理解してくれていたんだな」とうれしくなります。
ー指導する際のモットーはありますか?
相原:自分自身も販売員であるということを忘れないことです。ぼくは店頭スタッフに対して研修することがほとんどなのですが、相手に「この人は本部から来た人だ」という意識をあまり持ってもらいたくないんです。同じ会社の、同じ販売員であると思ってもらいたくて。そのために、ぼく自身も販売員であるという気持ちを失わないように心掛けています。あとは、新卒の方たちとは親子くらい年齢が離れているので、時代遅れのおじさんだと思われないように気をつけています(笑)。
佃:ぼくにとって相原さんは大先輩ですが、アットホームな雰囲気で接してくださるのでありがたいです。今日もお話しする相手が相原さんだと聞いてホッとしました。
リモートでの教育指導に加えて、同期と会えない不安もサポート。
ー昨年と今年の新入社員はコロナ禍での入社となり、例年以上に不安に感じることも多かったのではと思います。直接会って指導することができないというのは大変ですよね。
相原:集合での研修ができなくなってしまったので、オンラインでコミュニケーションを取ったり、動画を通じて指導したりする方にシフトしていきました。動画に関して撮影から編集まですべて自分たちで行っているので、かなり試行錯誤しました。YouTubeでいろんな動画を見て、尺の使い方や最後まで見てもらうための工夫を学んだり。最近、テレビを見ていても「このテロップの入れ方いいな」とか思っちゃうんです(笑)。
佃:それはすごいですね(笑)。正直、研修の動画が配信されると聞いたときには、長くて退屈なものを想像していたんです。でも、相原さんたちの動画はところどころに笑える要素があって。だからいつも配信日を楽しみにしていました。
ー全部で何本くらい動画を制作したんですか?
相原:内定時期だけでも数十本はありました。“毎月◯日は配信の日”みたいに決めていたんです。
ーすごい数です。だからこそ飽きさせないための工夫も必要だったわけですね。他にはどんなサポートをしていましたか?
相原:昨年の新卒社員に関しては、入社式が中止になったことで同期との繋がりを作る機会がなくなってしまったのではという心配もありました。気軽に相談できる仲間がいなくて困っているんじゃないかなと。そこで、彼らにとって身近なツールであるSNSを使って、顔が見えない同期同士を繋ぐ役割をぼくらが担っていました。Instagramに専用のアカウントを作って、そこでライブ配信をしたり、みんなから募った私服スタイリングを発信したり…そういう企画を一年間やりました。
佃:なかなか会えない地方の方ともそれをきっかけに繋がることができたので、とても助けられました。SNSを通じて同期と励まし合うことができたおかげで、人間関係の面での不安はあまりなかったかもしれません。
ー業務の面で、「ちゃんとやれるだろうか」という心配はありましたか?
佃:ぼくは入社に先行して店舗でアルバイトをしていたので、実際に働きながら「動画で教えてもらったのはこういうことか」と身をもって理解していくことができたように感じます。
相原:佃くんたちの代は約200人いたので全員は叶わなかったのですが、全体の3分の1くらいが先行してアルバイトをしていました。接客業ってどうしても体を使ってやってみないとわからないことも多くて。座学だけでは習得しきれない部分もあるんですよね。
ーリモートや動画で教わったことを、現場でさらに学べるというのは心強いですね。昨年4月に入社した後に緊急事態宣言が要請され、およそ2ヶ月間自宅待機となってしまいましたが、その期間はどのように過ごしていましたか?
佃:ほとんど家にいなくてはならなかったので、 研修動画を見たり課題をやったりするだけでは時間を持て余してしまうんですよね……。かといってダラダラ過ごしているとモチベーションが下がってしまうと思ったので、どうにか仕事に繋がることをやろうと、学生時代の仲間とオンラインでファッションショーをしたりしていました。ビデオ通話でお互いのコーディネートを披露し合って、アドバイスをもらうっていう。
相原:それは素晴らしい! 毎週課題を出していたものの、きっとみんな暇になってしまうだろうなと心配していたので、そういう過ごし方をしてくれていたと知って安心しました。
ー実際にそれが役立っている感覚はありますか?
佃:ぼくが働いている店舗はさまざまな年齢層のお客さまが来てくださるのですが、自分と違うテイストのスタイリングも提案しやすくなったように感じます。友達と半分遊びでやっていただけですけど、いま思うとやっていてよかったですね。
自分の得意分野を伸ばしつつ、会社の経営理念を肌で学ぶ。
ーいま、お店ではどんな業務を担当しているんですか?
佃:ぼくは「5S」を担当しています。
相原:「5S」の5つのS、全部言えるかな?(笑)
佃:整理、整頓、清掃、清潔、しつけです! うちの店舗にはもともと5S担当がいなかったのですが、ぼくが隅まで徹底して掃除しているのを見た先輩が「そこまでやる人はなかなかいないから、5Sやってみようか」と声を掛けてくださって。お客さまに気持ち良くお買い物していただくためのすごく大切な役割だと思っています。
ー具体的にはどんなことをするのでしょう。
佃:まずは、率先してお店をキレイにすることですね。ただ、自分だけが掃除を頑張っても意味がないので、店舗全体で掃除を心掛けるために清掃の役割を記した分担表を作成したりもしています。
ーそこが「5S」の“しつけ”にあたるわけですね。実際にお店に立って働いてみて、どんなときにやりがいを感じますか?
佃さん:お客さまからの「ありがとうございました」「また来ます」などという一言にいつも励まされています。中には「お兄さんじゃなかったら買わなかったよ」と言ってくださるお客さまもいたりして。やりがいを感じる瞬間はたくさんあるのですが、そういうお客さまとの繋がりはうれしく思います。
ーユナイテッドアローズ社が掲げる経営理念に対してはどう行動を心掛けていますか?
相原:「経営理念」「目標管理」「生産性」という3つの大切なキーワードがあって、ぼくたちとしてはユナイテッドアローズ社らしい哲学を持った人が成長していく姿を見られたらなと願っています。ただ、制度や仕組みももちろん大事なのですが、ぼく自身は周りの空気感や風土に育ててもらったという実感も強くて。直接指導するだけでなく、そういう環境を作るところから働きかけていきたいと思っています。洋服屋としてのノリと会社員としての社会性を兼ね備えたバランスの良い人に育ってもらうためにも、研修の際にユーモアと遊び心を忘れないよう徹底しています。
佃:ぼくは入社してまだ一年ですが、周りの先輩方を見ていると「これがユナイテッドアローズ社らしさなのかな」と感じることが多々あります。みなさんに教えてもらった会社の経営理念を大切にしつつ、ぼく個人としては「どうやったらお客さまに喜んでもらえるのかな」と臨機応変に考えるように心掛けています。
仕事にもプライベートにも通ずる二人のモットー。
ー佃さんが大切にしているお客さまへのおもてなしの心は、日常的なコミュニケーションでも活きてきそうですね。
佃:そうですね。ぼくは常に人とコミュニケーションを取ることを心掛けていて、飲食店の店員さんとか、タクシーの運転手さんとか、行った先々でとにかくいろんな人と話すんです。そういう会話の中で自分の知らないことを知ることができて、幅が広がっていくような感じがするんですよね。
ー他にプライベートで大切にしていることはなにかありますか?
佃:仕事以外の時間もなるべくファッションに触れていたいなと思っています。ぼくはスニーカーが大好きなので、家にたくさんコレクションがあるのですが、この初任給で買った<NIKEエアマックス97UNDEFEATED>は思い出の一足です。ブラックに差し色のレッドとグリーンが入ったカラーリングがすごく好みで、一目惚れしてしまいました。学生時代にブレイクダンスやスケートボードをやっていたこともあり、ストリートっぽいテイストには心惹かれますね。
ー佃さんは先ほどのファッションショーの話も含め、純粋に服が大好きなんだなというのが伝わってきます。相原さんはどうですか?
相原:接客や教育には、共通して物事や人の気持ちをうまく言語化することが求められると思うので、プライベートでも言葉選びに気をつけるようにしています。もう10年近く、松本人志と高須光聖の「放送室」というラジオ番組を毎晩聞いていて。お笑いが好きっていうのもあるのですが、話の組み立て方の面でも学びになることが多いんですよね。
ーたしかにラジオの方々の話し方って絶妙ですよね。
相原:あとは、村上 春樹の影響も大きいです。初期の短編集が特に好きで、何度も繰り返し読んでいるのは『カンガルー日和』の中の『4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて』。理想の女の子に出会った時にどう声をかけるかっていう話なんですけど、言葉選びや表現が独特で憧れるんですよね。その反面で、山田 洋次監督の『男はつらいよ』シリーズのような身近な言葉も好きなんです。寅さんって、ぶっきらぼうなのに本質的で心に響くことを言うんですよ。村上 春樹のように知性を感じる部分と、寅さんのように粗野だけど胸を打つ言葉を同居させて、うまく話ができたらなと思います。
時代が変わっても、常にお客さまに喜んでもらうことを第一に。
ー新型コロナウイルスを機に販売のあり方も変化しつつあると思うのですが、それをふまえて変えたことはありますか?
佃:お客さまに声をかけるときの物理的な距離感にはかなり気をつけています。はじめは戸惑いましたが、最近は自然とほど良い距離感を計れるようになりました。
相原:そうやって接客の面で変えた部分はあるのですが、 ぼく個人としては、お店に来てくれたお客さまに満足してもらうという小売の仕組みはこれから先も変わらないような気がしていて。いまの形態ってなんだかんだ100年後も残っていると思うんです。新しいルートやツールはどんどん増えていくと思いますが、おもてなしの心は変わらないんじゃないかなと。
ーなるほど。たしかに、ECがどれだけ便利になろうとお店でしか味わえない感覚や体験ってありますもんね。最後に、佃さんの今後の目標を教えてください。
佃:ファッションの知識を増やしたり、販売力を成長させるのはもちろんなのですが、その上で今後も自分のスタイルを貫いていけたらと思っています。ぼくはストリートなスタイルが好きなのですが、いま働いている店舗にはこれまでそういうテイストのスタッフがあまりいなかったようで、最初は「ブランドイメージに合ってないのかな…」という不安があったんです。でも、何をどう着るかは人それぞれの自由だと思うので、いまは「グリーンレーベルの服はちょっとキレイめに見えるかも知れないけど、組み合わせやサイジング次第でこんなコーディネートもできますよ」ということを伝えていきたいなと思っています。そう思いながら働いているからか、少しずつお客さまの層が広がっているような感触もあるんです。
相原:それはいいことだね。途中で不安になって曲げなくてよかった。
ー相原さんから、佃さんをはじめ新人の方々へのメッセージをお願いします。
相原:いまの佃くんの話のように、個性や人間性を出し惜しみしないで欲しいなと常に思っています。いまの時代、販売員一人一人の個性を出していかないとお客さまの琴線に触れられないと思うんです。予定どおりに想像どおりのものが買えただけでは、当たり前すぎて記憶に残らないというか。だから、怒られないことだけを考えて行動するような、没個性な接客にしたくないんです。いい意味でのハプニングはどんどん起こって欲しいですね。お客さまに「あんなに素敵な人に出会えると思ってなかった」と思ってもらえるような、そういう期待の裏切り方がどんどん起こることを願っています。
佃:そう言っていただけて少し安心しました。これからも、自分なりに工夫して努力していきたいと思います。
PROFILE

相原 正幸
2007年入社。ユナイテッドアローズやビューティ&ユース ユナイテッドアローズの都内店舗の販売員を経験し、2018年販売支援部へ異動。現在は人材開発課で新卒・中途入社者の基礎教育を担当している

佃 優希
2020年4月入社。ユナイテッドアローズ グリーンレーベル リラクシング ららぽーと富士見店に配属。現在は5S担当として、お客さまに気持ち良くお買物していただくための仕組みづくりに取り組んでいる。