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  • モノ MONO
  • “手間ひま”に込められたストーリー
  • 2015.12.25 FRIDAY

“若手デザイナーの登竜門”との呼び声が高い欧州のファッション・アワード「インターナショナル・タレント・サポート(通称ITS)」。2014年に行われたこの栄えあるコンテンストにて、シューズ・デザイナーの荒井貴文さんがアクセサリー部門の特別賞を受賞しました。彼がデザインしたのは、これまでに見たことのない独創的な世界観をもつシューズ。それを見て「情熱を感じた」と、<ユナイテッドアローズ>のバイヤーである内山省二さんは語ります。その情熱を多くの人に伝えるべく、今シーズンより両者の取り組みがスタートします。冬の足音がコツコツと聞こえはじめたある日、内山さんが荒井さんのもとへ訪ねていきました。

Photo_Kousuke Matsuki
Text_Yuichiro Tsuji

ユニークなデザインの裏側にあるもの

内山:荒井さんの手がけた靴を最初に拝見したときに感じたのは「すごくユニークだなぁ」ということでした。すべて手縫いでつくられてるのが見た瞬間にわかるし、それに加えてデザインがとにかく面白くて素晴らしいんです。というのも、いわゆる「革靴はこういうつくりでなければいけない」という常識のようなものが、いい意味で覆されていて。荒井さんはどこで靴づくりを勉強されたんですか?

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荒井:僕が卒業したのは服飾の専門学校で、靴づくりを学んだことはなく、いわゆる独学に近いと思います。国内の靴屋さんで職人の実演をみるところからはじめ、浅草の材料屋さんや資材屋さん、それから日本国内にとどまらず、イギリス、イタリア、ドイツの靴屋さんや展示会など、“現場”で培ってきたものがほとんどです。専門学校在学中は、授業が終わった後に浅草の靴工場を訪ね、帰ろうとしている職人さん、残っている職人さんを捕まえて教えてもらったこともありました。そういったなかで、たくさんの職人さんとやりとりをしながら、知識や技術を身につけていきました。

内山:なるほど、そうだったんですね。

荒井:中でも浅草の工場で働くひとりの職人さんと出会ったことは非常に大きかったです。自分でつくった靴を何度もその方に見せにいって、その度に教えを乞いながらノウハウを学び、技術を磨いていきました。その工場は少し変わっていて、グッドイヤーウェルト(注:靴の製法のひとつ)のオーセンティックな正統派のシューズから、デザイナーズやクラフト感のあるものに至るまで、文字通り多種多様な靴をつくっていて、そこでいろんなものを見せてもらってきたことが受賞した靴にも活きています。

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内山:いまのお話を聞いてすごく腑に落ちました。なぜなら、荒井さんの作品は“デザインが魅力的である”というのに加えて「すごく気持ちが込もっているな」と感じていたからです。いわば、情熱のようなものを。何度も、つくった靴を見せて教えを乞うというのは、よほど靴のことが好きじゃないとできない。やはり、荒井さんの情熱や想いが込められているんですね。

荒井:靴が本当に好きなんですよ。ファッション的視点で見たフォルムの美しさと、履くことによって姿勢や歩き方が変わるというモノの機能美に魅了されています。

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大量生産、大量消費の社会に感じること

内山:この靴がパッチワーク状になっているのは、もう使用されない“残革”を再利用してつくられているからですよね。そこにはどんな想いがあるんですか?

荒井:今まで、自分のつくるもののいわば原点、つくられている現場、工場、そういった所をたくさん訪ねてきました。その中のひとつで、イタリアのトスカーナにあるタンナーを訪ねたことがありました。彼らは革をなめす際、いまだに昔ながらの伝統的な製法を頑なに守り続けています。そういった姿や、彼らの想いを感じると、いくら不要となった革でも捨てることができず、貯めていたんです。デザイナーとして、これらの資材を有効活用したい、という想いが長年あり、それを今回、ITSに応募した靴で使用しました。

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内山:私たち日本人には、そのような想いがどこかしらにありますよね。そもそもレザー自体が動物の皮革だし、そういった部分にもやはり感謝しなければならないと思いますし。

荒井:いまは「もの」が大量に生産されて、簡単に消費されることが当たり前の時代になっていますよね。僕はそういった時代、社会、ファッションの流れに対して疑問を感じています。ものに対する人の思いやり、ものをつくるときの手間ひまをもっと大切にしたい。デザイナーとしてものづくりをする上で、そういったことは、いつも心がけています。

内山:むかしの日本には、生地を継ぎはぎする“ボロ”の文化があったじゃないですか。当時は貧困やもの不足という時代背景があって、ひとつのものを大事に長く使おう、という想いからボロが生まれたと思うんです。でも、現代はその真逆。こういう時代だからこそ、荒井さんの作品が意味のあるものになりますよね。刺し子などの縫い模様も、手間ひまがかけられていると感じます。

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荒井:そうですね!使えるものを最大限使いつくすという、日本人が持つ当たり前の日本人特有の精神、そういった日本特有の文化を今だからこそ表現したかったんです。数多くある手法の中でも「手縫い」には愛情や温もりを特に強く感じます。ものが無いむかしとは違い、何でもある時代に、贅沢ともいえる豊かな色彩、素材使いを「手縫い」という手法を用いてアイロニカルに、一種のアンチテーゼとして「現代の靴」として示しました。また、イタリアという海外のコンペティションに応募したので、作者が日本人ということをどこかで感じ取ってもらえるように、色、形は控えめに、“刺し子”や“こぎん刺し”などの縫い模様、日本の繊細な意匠を随所に取り入れています。


長いあいだ楽しめる“余白”のあるプロダクト

内山:最初に荒井さんの靴を拝見させていただいて、そのすごさに圧倒され、この感動を可能な限り多くの人に伝えたいと思ったんです。靴を何足もつくってもらうのは現実的ではなかったので、いまお話いただいたアイデアを、どうにか活かせないかな、と。それで考えた結果、今回のキルトタンとタッセルをつくることになって。紐靴ってみんな履くじゃないですか。そこに簡単に付けられるものなら、お客さまに楽しんでいただけるんじゃないかと思ったんです。

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荒井:僕自身、いまの自分の「技術」や「手法」を人の手に渡るものへ活かしたいと思っていたので、お話をいただいたときは純粋にワクワクしました。“靴として”という考えしか頭の中になかったので、靴につけるアクセサリーという提案を頂戴したときは、私ひとりでは考えつかなかった、とても良いアイデアだと思いました。

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内山:今回商品化するアイテムもすべて手作業でやられていますが、作業は職人さんたちと手を取り合ってやられているんですよね?

荒井:そうですね。職人さんたちの手を借りながらみんなで作っています。色、革の組み合わせ、そしてステッチの配色まで全て僕自身が決め、同じものが二つと出来ないように工夫しています。ただ、ステッチを縫う際の力加減や、手打ちで開ける穴の打ち具合は職人さんそれぞれなので、本当に1点1点違います。そういった個性豊かな作品を楽しんで使用していただけたら、という思いでつくっています。

内山:ステッチの量が多いものと少ないもので、いくつかのパターンを用意してもらったのは、選択肢を増やすというのはもちろん、お客さま自身がこのアイテムを使いながらアレンジを加えるのも面白そうだと思ったんです。「ここにこういうステッチや飾りがあったら面白そうだから、自分でやってみようかな」と。そうやって長いあいだ楽しめる“余白”が、荒井さんのつくるアイテムにはあるような気がして。

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荒井:革に穴を開けて糸を通すだけなので、作業自体はシンプルで誰にでもできるもので、特別なテクニックではありません。先ほども言ったように、職人さんの手のくせ、職人さんのその日の気分、そういったものがそれぞれの商品に表れ、一つひとつ違う、均一ではない、フラットではない、味わいのあるものになっていると思います。さらに、お買上げいただいたお客さま自身も、同じように手間ひまをかけることで、アイテムに愛情を注いでくださったら嬉しいです。

内山:このプロジェクトが一段落したら、その次に考えていることなどはあるんですか?

荒井:実は、ITSに応募した靴をつくり始めた頃から「アップサイクル」というキーワードが自分の中にあります。今回のキルトタンとタッセルは、お客さまの靴に新しい表情を加えるアイテムの一つで、アップサイクルを応用したかたちになっています。いままではゼロから何かをつくりあげるものづくりが多かったのですが、今回のプロジェクトを通して、既存のものに“加える・付け足す”ことで、そのものの「価値を変える」手法、アップサイクルの可能性をより感じました!今後はこういった手法を自分のものづくりの中に取り入れて、自分のものづくりの方向性を拡げていきたいと考えています。

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