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  • 今あらためて面白い、和装の足元。
  • 2019.06.27 THURSDAY

今回は和装の履物のお話です。つまり下駄や草履、雪駄といったもの。日本で古くから親しまれている履物ですが、普段からそれを履く人はもうほとんどいないのではないでしょうか。でも実はそれは現代の履物にも大きな影響を与えたものであり、けっこう身近なものなのです。今回は、浅草で100年以上履物問屋を営む「長谷川商店」の大番頭である中戸紀之さんに、歴史から現代の楽しみ方まで、履物にまつわるあれこれを教えてもらいました。季節はそろそろ夏。浴衣を着る機会が増えるこの季節をきっかけに、今一度日本の伝統に触れ、その魅力を確かめてみませんか?

Photo_Hiroyo Kai
Text_Jun Namekata (THE VOICE)

意匠に理由あり、合わせ方に制限なし。

さて、和装の履物の代表的なものといえば下駄、草履、雪駄などが挙げられます。もちろん、革素材などで足をすべて覆う“沓(くつ)”も昔から日本にはありましたが、それは主に貴人が履くものだったのだとか。しかし高温多湿な日本の気候には、足を覆わない履物の方が理にかなっていた。そのため、庶民は主に下駄や草履、雪駄を履いていました。

_MG_0202長谷川商店にオーダーしたユナイテッドアローズオリジナルの男性用の下駄(左)と女性用の下駄(右)。男性用の下駄は「右近型」といい、女性用の下駄は舟型といいます。歯が2枚あるタイプよりも履きやすく、シューズ感覚で楽しめる。鼻緒には甲州印伝を使用。涼しげな浴衣との相性もいい。

そもそもこの3種の履物は、何が違うのか。中戸さん曰く、「2枚の歯を持つ『下駄』は、当時の砂や砂利や土の地面を歩くには、この2枚の歯がスパイクのような役割を果たし、歩きやすい。また着物を泥跳ねやトイレが整備されていない当時の排泄物の跳ねなどからも守る役割もありました。『草履』は、元々は稲藁や竹の子の皮を編んだものを重ねたものでしたが、昭和に入り主に、コルク材に革や布などを巻き、重ねて整形した履物。日本で靴が普及するまでは、気軽に普段履きできる草履が広く愛されていました。また、草履の一種とも言える『雪駄』は“畳表”であることと底に“革張り”がされていることがその特徴。出自には諸説ありますが、かの千利休が水を打った露地で履くために考案したとも言われています」。

ちなみに夏の足元の定番であるビーチサンダルの発祥も実は日本。その文化と技術が応用されたものなのだとか。鼻緒式の履物がいかに理にかなったものであるかがうかがえます。

_MG_0240女性用の下駄(左)、男性用の草履(右)ともに菱屋のもの。女性用の浴衣は墨流し染めで矢羽根と呼ばれる柄を表現したもの。草履は鼻緒の色を合わせて清涼感を後押し。男性用の浴衣の柄は破れ格子と呼ばれるもの。その昔、格子は幕府を象徴するもので、それを破いてあることからかぶき者の柄とされていました。そんな反骨精神のある柄にちなんで、足元も大胆な赤で。

_MG_0307ユナイテッドアローズ別注のアイランドスリッパは、日本の伝統文様のさまざまな柄をパッチワークしたような裂取り(きれどり)。脱いだときに大胆な柄が見える粋な仕掛けです。サンダルに合わせて浴衣もブルーとホワイトの絞り染めで。

逆の視点から考えれば、必ずしも浴衣に日本の伝統的な履物を合わせなければいけないというわけではありません。鼻緒タイプのものであれば基本的に和装との相性は良し。例えばハワイのブランドのアイランドスリッパは、もともと日系人が立ち上げたブランドという歴史もあってか、浴衣とのコーディネートでもまったく違和感がなく、むしろ着こなしがモダンに映えます。

_MG_0082左の浴衣とは思えないほどの大胆な柄は、老舗の和装メーカーが古典的な浴衣だけではなく、現代的かつ都会的な浴衣をつくるために、グラフィックデザインの中から抜き取ってパッチワークのように表現した柄。デザイン性の高いサンダルも似合う。右はレインスプーナーとの別注で完成した浴衣。こんな風にレザーサンダルと合わせてみるのも良さそうです。

さらにオールレザーのものやデザイン性の高いものまで、鼻緒タイプの履物は今ではバリエーションが豊富。例えばレインスプーナーとの別注で完成した浴衣には、ナチュラルな風合いのブラウンレザーサンダルがよく似合いますし、マルチカラーのモダンな浴衣にはひねりの効いたこんなサンダルも似合う。浴衣をモダンに、そして身近に楽しむ上でもとても役に立つものがたくさんあります。


伝統的なものこそ、柔軟に楽しめる。

_MG_0327大胆な柄の浴衣に合わせたのは『真角』と呼ばれる角がしっかり立った四角形の下駄。さらにこれは桐の中でも高級な、年輪の多い“本柾”という素材を使用。さらに鼻緒には甲州印伝を使用した、ツウもうなる本格派の一足です。

「和装としての履物は知れば知るほど奥が深い。ただ、それと同時に柔軟で懐の深いものだと思います。“粋”であることを求めて伝統的なものを選ぶのも洒落ていますし、現代的なデザインと合わせてもそのマッチングが面白い。アプローチとしてはファッションと同じ。自由度が高くて、コーディネートの楽しみがたくさんあるんです」とはユナイテッドアローズの和装担当の諸田佳宏の言葉。「足元の選び方のコツがわかれば、和装はもっと楽しくなる。逆に、和装に親しむ入り口として足元の遊びから入ってみるのも手かもしれません」。


スラックスに下駄だってあり。

古くから使われている本物の素材を妥協なく使用し、熟練の職人が手作業で仕上げる。「長谷川商店」は今もなお昔ながらの手法で履物をつくり続ける数少ない名店です。「せっかく自分の国で育まれた履物の文化。一度でいいので、履いてみていただきたい」と大番頭の中戸さんは語ってくれました。

_MG_0384中戸さんの雪駄はサイズがかなり小さめ。鼻緒に足も入らない。江戸時代は“馬鹿の大足”という言葉があり、足はより小さく見えた方が良かったため、このような履き方が流行ったのだとか。

「素材を見極めて、確かな技術でつくりあげる。履物づくりはまさしく熟練業です。安価なものもたくさんありますし、履物の良し悪しを見極めるのも難しい。ですが、やっぱりせっかくならば本物を履いていただきたいですね」。

そんな中戸さんは、もちろん普段から雪駄や下駄を着用。ただし和装にではなく、洋装にさらりと合わせています。

「いきなり下駄はちょっとハードルが高いかもしれませんが、草履や雪駄ならばサンダルと同じような感覚で履いていただけると思います。洋装に合わせても問題ないと思いますし、慣れるととても快適ですよ」。

そんな中戸さんの履きこなしを見てみると…鼻緒にほとんど足が入っていない!? 中戸さん、これは?

「これは“チョン掛け”といって、江戸時代に粋とされていた履き方なんです。足が入らないくらい鼻緒をきつくして、つま先で引っ掛けるだけ。初心者の方にはきっと無理だと思います。私はもうこれで走ることもできますけれど(笑)」。

_MG_0395_MG_0405下駄は真角派。左は桐の木に高級素材である“ごまだけ”を天板に貼ったもの。鼻緒には甲州印伝を使用している。右の鼻緒は細く裂いた牛革を細かく編んだもの。熟練した職人だけが完成させられるものだ。

新しい発見が必ずあるはず。

和装を足元まで含めて楽しむもよし。サンダルでカジュアルに浴衣を楽しむもよし。あるいは、普段の着こなしに雪駄や下駄を合わせてみるのもよし。日本の伝統的な履物は、実はシーンや着こなしを限定しないのもその魅力のひとつです。夏は和装をカジュアルに楽しむ絶好のシーズン。ちょっと新しい自分を見つけてみませんか。

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