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  • ウツワ UTSUWA
  • 6月23日は「オリンピックデー」。元バスケ女子日本代表・矢野良子さんの、オリンピックと「3×3」にかける情熱。
  • 2019.06.20 THURSDAY

かつてバスケ女子日本代表選手として2004年アテネオリンピックに出場した矢野良子さんは、現在、新種目の3人制バスケ「3×3(スリーバイスリー)」で東京オリンピック出場を目指し、自ら立ち上げた新リーグを運営しながら競技の普及活動にも力を注いでいます。6月23日のIOC(国際オリンピック委員会)創設を記念した「オリンピックデー」にちなんで、そんな彼女の東京オリンピックとバスケにかける誰よりも熱い思いに迫ります。

Photo:Takahiro Idenoshita
Text:Kai Tokuhara

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アテネでの苦い思い出が、3×3への転向を決意させた。

―矢野選手は2017年オフに5人制バスケの強豪トヨタ自動車アンテロープスを退団し、3×3に転向されました。やはり3×3の東京オリンピック正式種目決定が新たなチャレンジへのきっかけになったのでしょうか。

矢野:はい、最も大きな理由ですね。なにせ最高の舞台であるはずのオリンピックが、私にとっては今のところ最悪の舞台のまま終わってしまっているので。

―その思い出というのは2004年のアテネオリンピックのことですね(1次リーグ最終戦、最後のプレーで3ポイントシュートを外して決勝トーナメント進出を逃す)。

矢野:私がシュートを決められなかったせいでチームを決勝トーナメントに導けず、長年代表を支えてくださった先輩方にも華を持たせられなかった。他にも自分のなかでいろんな後悔があって。だから5人制の現役中も常にオリンピックにもう一度出ることを目標にしていましたが、日本代表が若手にシフトしていったためチャンスは少なくなり、年齢も年齢だからそろそろ引退も考えなきゃなというタイミングを迎えました。そんな折、3×3がオリンピック競技になる噂を耳にしたんです。自分の競技人生にどう終止符を打つべきかを模索するなかで、これはあと2年頑張ればもしかしたらオリンピックに行けるんじゃないかと。

―苦い経験を払拭するためのチャレンジであり、またある意味では自身の引き際を飾るためのチャレンジだったというわけですね。

矢野:だって負けたままは嫌じゃないですか(笑)。やっぱりアスリートである以上、最高の形で競技人生を終えたいですから。でも今思うと不思議というか、もしアテネオリンピックのあの試合で3ポイントが決まって決勝リーグに上がれていたとしたら、おそらくもっと早い段階で現役を引退していたと思うんですよ。それが今こうして3×3で東京オリンピックを目指しているなんて、人生は面白いものですよね。

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競技力向上を目指し、自ら新リーグを設立。

―矢野さんは3×3へのチャレンジ開始とともに、女子国内最高峰のリーグ「3W(トリプルダブル)」を立ち上げられました。競技者と普及活動の二足のわらじを履くことになったのはどんな理由からですか?

矢野:競技としての3×3バスケが日本で立ち上がった頃から目にしてきて、やはり女子の土壌の薄さを把握していましたが、いざ転向してみるとその問題点をより強く感じたんです。また1年のうちの活動日程も極端に少なく、このままでは確実にオリンピックには行けないぞと。やはり強化のためには何よりも“場数”が必要。そのためにはどうすべきか、自分なりに懸命に勉強した結果、私自身も含めて選手たちが頻繁に本気の試合ができる大会をつくってしまおうというところに行き着いたんです。

3__0629-utsuwa国内最高峰の3人制女子バスケリーグ「3W(トリプルダブル)」。最大12チームが、各地で行う1dayトーナメントを12ラウンドにわたって戦い、ポイント上位のチームのみ参戦できるファイナルでNo.1を争う。

―リーグに参戦するチームが順調に増えているそうですね。

矢野:立ち上げ当初はスポンサー探しや選手たちの仕事との両立という面で難しい部分はもちろんありましたが、ありがたいことに直近の大会ではキャンセル待ちも出るようになるなど、参加チームはじわじわ増えてきていますね。少しずつですけれど、軌道に乗ってきている実感はあります。

―矢野さんが立ち上げられた3Wによって、3×3そのものが競技として定着していけば、女子バスケ全体の裾野や門戸の広がりにも期待できますよね。

矢野:まさにそこが一番の狙いですね。バスケは日本でトップ3に入る競技人口を抱えているスポーツにもかかわらずトップカテゴリの規模が決して大きくなく、それゆえプロやオリンピック選手を目指すための門戸も狭いんです。男子はBリーグの影響で飛躍的に良くなってきていますが、女子に関しては本当にまだまだ。そんな中、3×3ができたことによって少し活路が開けたのではないかなと。いずれは3×3でプロになりたいという選手が出てきたり、そのことによって5人制バスケにもいい影響を与えたり、バスケシーン全体で盛り上がっていけばいいなという思いは強いです。


3×3には、5人制バスケにひけを取らない魅力がある。

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―矢野さんご自身が実感している3×3ならではの魅力とは?

矢野:よくサッカーとフットサルの違いに似ていると言われますけれど、やはり5人制と3×3では競技性そのものが大きく異なります。そもそもコートが半分で試合時間も10分と短く、どちらかのチームが21点取った時点で試合が終了するノックアウト方式。またオフェンス時間が12秒しかないのでスピーディですし、5人制と比べてファウルの笛も少ないので身体同士がバチバチ当たるとてもタフな競技です。その迫力たっぷりなシーンを、コートのすぐ脇で観られるのも3×3の醍醐味なんじゃないかなと思っています。

―コート上では、5人制のようにポジションが明確に分かれているのですか?

矢野:5人制は小さくてスピードのある選手がガード、身長が高く当たりの強い選手がセンター、というイメージがあると思いますが、3×3に固定のポジションはありません。だから平均的に長身の3人をコート上に同時に置けて、かつ全員が中でも外でも勝負できるチームが強いです。身長はあるけど外からのシュートや中への切り込みが苦手、という選手はなかなか難しい競技だと思います。とはいえ私自身もまだまだ勉強中。5人制バスケで培ってきた経験は活かしつつ、試合ごとに反省を繰り返しながら、スキルアップを目指しています。

(※) バスケ用語で、中は「インサイド」、外は「アウトサイド」と呼ばれている。インサイドは比較的ゴールに近いエリアで、一般的にゴール下付近や制限区域(台形ともいわれる長方形のなか)とその周辺までを指す。アウトサイドは反対に、制限区域(台形)の外側からスリーポイントライン周辺までのエリアのことをいう。

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―いろんな場所に即席コートのような形で試合会場ができ上がるのも面白いですよね。

矢野:それも売りにしているポイントです。バスケの本分である“ストリートカルチャー”を大切にしながら、いつでもどこでも誰でも参加できるスポーツにすることが理想です。ゲリラ的と言ったらちょっと語弊はありますけど、街中や駅前、ショッピングモールなど必然的に人に集まる場所にコートを設けて試合を行うことで、通りすがりの人もつい足を止めて見入ってしまうような競技にしていきたいです。また2020年の東京オリンピックでは3×3の他にサーフィンやBMX、スケートボードなども新種目になっているように、今やストリート発信のスポーツが競技として認知されてきている時代。このチャンスを生かして、3×3をもっとメジャーにしていきたいという思いもありますね。

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東京オリンピックにかける思いと、その後のビジョン。

―東京オリンピックまで約1年。ここから、本大会に出場するためにはどのようなプロセスが必要になってくるのでしょうか。

矢野:女子の日本代表は条件付きではありますが3月に開催国枠での出場が発表されましたので、ここからは代表の座を巡る選手個人の戦い。代表に招集されるためには所属チームでなるべくたくさん試合に出場し、なおかつ勝利してポイントを取らなければなりません。だから全員がライバルですね。

―競技者として、東京オリンピック以降も3×3の選手であり続けようと思いますか?

矢野:いえ、選手として3×3のコートに立つのはオリンピックまでだと思っています。出場できても、できなかったとしても、2020年で引退します。だって、もう身体づくりはしたくないですよ(笑)。そういう意味でも、ここからの1年というのは自分の競技人生の集大成というか、バスケ選手としてやってきたこと全てをかけて3×3に取り組むつもりです。

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―そこまでして出場を目指す魅力が、やはりオリンピックにはあるのですね。

矢野:そうですね。世界中の方々に自分のプレーを見てもらえる環境として、オリンピックに勝るものはないですから。その舞台に立てるチャンスが少しでもあるのなら、後悔のないよう、他の生活の楽しみを犠牲にしてでもアスリートとしてチャレンジしたい。アテネオリンピックで経験させてもらった、毎日鳥肌が立つようなあの素晴らしい感覚をもう一度味わいたいんです。

― 最後に、2020年東京オリンピック後の人生の展望をお聞かせください。

矢野:3×3は2020年以後もおそらくオリンピック競技に定着していくと私は考えています。だからこそ“東京”を機に、女子の3×3をもっと盛り上げ、ストリートからスター選手を輩出していくために、大会運営も含めて尽力していきたいです。またバスケのみならずいろんな競技のアスリートともコラボレーションしたいですし、これはすごく壮大な野望ですけど、例えばアメリカのような地域に根ざしたプロスポーツの応援文化を3×3を通して作り出したい。オリンピックやサッカーのワールドカップだけじゃなく、国民の皆さんがもっといろんなスポーツ競技を日常的に観に行く環境になるようにいろんな仕掛けを考え、かつアスリートの価値を高めるための活動にもどんどんチャレンジしていきたいと思っています。

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