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  • ムービーディレクター上山亮二が思う「映像だから伝えられること」
  • 2019.04.01 MONDAY

ユナイテッドアローズのムービー『情熱接客』『NiCE UA』などを手掛けてきた、ディレクターの上山亮二さん。上山さんの映像には、つくり込んだものにもドキュメンタリーにも、ディレクションの意図を感じさせない「生の空気感」があるような気がします。そしてストリートのいきいきとした匂いを漂わせつつ、どこか静かな気配をまとっています。直接的ではないけれど見るものに何かを伝える映像。上山さんは、どのようにしてそんな映像をつくってきたのでしょうか。

Photo:Shunya Arai
Text:Tomoshige Kase

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映像制作は完全に独学

ーまずは上山さんが映像の仕事に就いたきっかけを教えてください。

中学生の頃から映画を見るのが大好きで。高校、大学を通じてずっと映画オタクのような感じでしたね。でも「つくる」ことはまったく考えていなかったんです。将来は映画にまつわる仕事に就ければ何でもいい、と思っていました。学生時代は配給会社や映画館、当時は映画に強かった雑誌『SWITCH』の編集部などでアルバイトをしていましたね。

当時「ファッションの映像って少ないよね」とよく友人と話していまして。20歳くらいですね。テレビ番組の『ファッション通信』くらいしかなくて。ならば、そんな動画をつくってみようと、友人とともに会社を立ち上げたんです。言ってしまえばそのときのノリなのですが。最初は自分が手を動かす(撮影する)イメージはなくて、プロデューサーみたいなことをやろうと思っていましたが、会社に3人しかおらず(笑)自分も作らなければならない状況になって…そこがスタートです。

ですから映像の仕事を専門的に学んだことはありませんし、完全に独学です。最初はパソコンも使えませんでしたが、やらざるをえない状況でやり始めたら面白くなってしまったという。

ー好きが高じてのキャリアスタートだったと。会社を立ち上げた頃はどんな仕事を?

専門のWebメディア(2009年にオープンした『DEFRAG』。現在は休止)に携わっていたのですが、それを見た方がユナイテッドアローズさんを紹介してくださって。最初は確か『買えるブルータス ユナイテッドアローズ店』というネット通販の映像だったと思います。


ドキュメンタリーの原則は「少人数」

ー上山さんは『NiCE UA』というユナイテッドアローズのムービーを長く手掛けてきました。この映像のコンセプトを教えてください。

『NiCE UA』はまず、ユナイテッドアローズさんが気になるヒトやモノをピックアップしていきます。僕はコンセプトを考えるというよりも、そのネタを形にする役割でした。

僕はもともと「映像作家」という意識がまったくないんです。もちろん自主的に作る映像もあるのですが、クライアントありきの仕事がほとんどで、ディレクターの感覚が強い。今でこそバジェットの多い仕事の場合は演出と編集に力を入れて、カメラマンや照明は外部の方にお願いしています。ただ、自分がカメラを回す場合も含め、編集作業は必ず自分で行うのがルールです。

ー『NiCE UA』やほかの映像も含め、上山さんの映像にはとても「自然な感じ」があります。自然に見える映像を撮影するコツはありますか。

ドキュメンタリーの場合は必ず「少人数で撮らせてほしい」とクライアントにお願いします。また通訳のパーソナリティによるところも大きいと思います。いかに相手の懐に入っていくかが大事ですから。

取材される側も「ムービークルーが来る」となると構えるじゃないですか。カメラマンがいて、照明がいて、大きなマイクを持った音声さんがいて……という。そこに少人数で行くとある意味肩透かしを食らったような感じになるのでしょうね。「あ、普通にしてればいいんだ」みたいな。

映像の世界には古い作法のようなものがあるというか……職人気質なんです。カメラマンにも照明にもアシスタントがついていて。そういう雰囲気は、僕の現場にはないと思います。自分で撮影するときも、いわゆる一眼で片手でも持てるカメラで臨むくらいです。

ー撮られる側も気負いなく自然体でいられる空気をつくるのは大事なことかもしれません。そして「映像と音楽の比重に差がない」ようにも感じます。音楽が単なる映像のBGMではない、というか。

やはり自分の軸にはヒップホップがあると思います。音楽には昔から気をつけているというか、こだわりがあります。ほとんど周囲の友人に作ってもらっていまして。

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よくある肩で担ぐ大きな映像カメラではなく、コンパクトな一眼カメラを駆使するのが上山さんの撮影スタイル。いい意味でラフなこのスタイルが演者や撮影対象者の緊張をほぐし、映像によりリアリティが増すのかもしれない。


スピーディな撮影を支える機材の進化

ー例えば『NiCE UA』は最終的に2~5分の映像に仕上がっていますが、実際はどれくらいの映像を撮影しているのでしょうか。

ドキュメンタリーの場合は本当に長く撮影します。一緒にいてカメラを回し続けるので。データ量でいうと50~100GBくらいでしょうか。時間にすると2時間分くらいか……ちょっと時間を意識したことがないのでわからないのですが。いずれにしても、それをもう一度自分で見直す、という作業が大変なんですよね。それが楽しみでもあります。

本当は編集作業も若い人たちに任せていかなければいけないんでしょうが、言葉で説明できない部分も多くて。もともと人に教えるのが得意ではないというのもありますが(笑)。

ーユナイテッドアローズとともにつくってきた過去の映像で、印象に残っているものを教えてください。

『NiCE UA』はどれも印象的でしたが、なかでも「ウールマーク」のプロモーションビデオは面白かったですね。店頭に並んでいるニットがどうやってつくられているのかを、逆再生の映像で表現したんです。

畳まれたニットが倉庫から出されて、トラックや船で運ばれて、中国の工場で編まれて……最後はオーストラリアの牧場で、おじさんが羊の毛を刈っているという。大変でしたが、やはり少人数でスピーディに撮影しました。

ユナイテッドアローズ社の動画コンテンツ「NiCE UA」のなかの『”How my sweater came to be.” ニットはこうして僕のものとなる。』。ニットの製造過程を3カ国で撮影し、逆再生の表現手法でつくり上げた、上山さんにとっても思い入れのあるムービーだ。

ーどんなカメラを使っているのでしょうか?

いわゆる一眼で、具体的にいうとソニーの「α7S Ⅱ」です。2005年頃から、いわゆるスチール用一眼レフカメラで動画が撮れるものが出てきたのですが、それが画期的でした。レンズを変えて被写界深度をコントロールできる(背景のボケの強弱がつけられる)ようになったんです。見れば「おおっ」となるじゃないですか。キャノンの「EOS 5-D」という機種が、映像業界で一世を風靡したんです。「α7S Ⅱ」はその後出てきたカメラですね。

それまで肩に担いでいた大きくて重いムービーカメラが、すごく小さくなった。機動力がアップして、海外に行くのも楽になりましたね。データもマイクロSDカードに収まりますし。予算に余裕があったり、演出に力を入れたくてほかのカメラマンにお願いするときは「RED」(米レッドデジタルシネマ社のムービーカメラ)を使ったりもします。あえて昔の8ミリ、16ミリカメラを使うときもありますね。

でも本来ディレクターなので、それほど機材は持っていないんですよ。多く持っている必要がないというか。

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映像だからこそ伝えられること

ー10年前と現在では、映像の仕事はどのように変わってきていると思いますか?

自分の技術はもちろん向上しているとは思いますが、本質的にはあまり変わっていません。それよりも周囲の環境が変わってきました。何より、YouTubeの存在がどんどん大きくなっていったことが印象的です。

10年前くらいからでしょうか、あるときを境にして、あらゆるクライアントが「YouTube用の映像をつくってほしい」と一斉にリクエストし始めたんです。まずYouTube用の映像をつくって、それからテレビCM用、自社ホームページ用の映像をつくる。YouTubeと、今ではInstagramの存在が非常に大きくなってきていると感じています。

「尺を短くしてほしい」「スマートフォンで見るから字幕のサイズは大きくしてほしい」というようなリクエストがどんどん出てきました。それにともなって、つくり方もずいぶん変わったような気がします。

ーさて4月1日、ユナイテッドアローズの経営理念を表現したムービーが公開されました。製作にはどれくらいの時間がかかりましたか。

2018年末に打ち合わせがありまして、今も(取材日は3月15日)編集作業を続けています。国内外5カ所くらいで撮影しました。海外はパリに行ったり、台湾に行ったり。東京で撮影したイメージ映像は時間も人数もそれなりにかけましたが、出張しての撮影は小人数。勢いで撮影した感じですね。

ユナイテッドアローズグループの理念体系(経営理念、社是、社会との約束)を表現したムービー。

ー最後に映像というメディアについて伺います。書籍や雑誌、スチール写真などにはない、映像ならではの有利な点はどこにあるのでしょうか。

クライアントによく「やっぱり映像じゃないと伝わらない」とおっしゃっていただけるのですが、実はつくっているほうはよくわからない、というのが正直なところです。「よかったです!」とは応えるのですが(笑)。

そうですね……映像がほかのメディアと違うのは、エフェクトやCGを使わない限り「嘘をつけない」ことでしょうか。それがほかのメディアよりも「伝える」ことに関して有利だというわけではなく、単純に映像の良さはそこにあると思います。

ただ僕の根底にはやっぱり映画があるのだと思います。最終的に映画を撮ってみたいというのもありますから、人の表情にはいつも注意を払っているかもしれない。そう、映像はアーティストやミュージシャンの声を伝えることができますよね。声質や話し方でずいぶん印象が変わってきますから。「ああ、この人はこういう声だったんだ」という。表情や声を含めた「人」を伝えることができるのが、映像の有利な点かもしれませんね。

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