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  • ヒト HITO
  • おしゃれを楽しみ、ワクワクする体験を。「041 FASHION」の挑戦。
  • 2019.02.28 THURSDAY

“ひとりを起点に、新しいファッションをつくる”。そんなコンセプトとともに「041 FASHION」がスタートしたのは2018年4月。プロジェクトの第1弾では、病気や障がいを持つ5人の方々にご協力いただき、それぞれの“おしゃれの課題”に寄り添う服作りに取り組みました。あれから約1年。協力者の皆さんに届けられたアイテムたちは、彼らの日常の中でどのように活躍しているのでしょうか。それぞれが抱えていたファッションの課題は、解決できたのでしょうか。開発の起点になった上原大祐さん、加藤さくらさん・真心さん母娘とともに、使い心地の“答え合わせ”をしてみました。

Photo:Yuko Sugimoto
Text:Risa Shoji

「障がい者は一人で移動しない、おしゃれもしない」という幻想。

元パラアイスホッケー日本代表選手で車いすユーザーの上原大祐さんを起点に開発された「後ろが外せる2wayコート」と、福山型先天性筋ジストロフィーを持つ加藤真心さんと共に作られた「スタイにもなるエプロンドレス」。まずは上原さんと加藤さん母娘それぞれに、これらのアイテムが生まれた背景や開発の経緯を振り返ってもらいました。

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―そもそも皆さんはファッションに関してどのような“困り事”を抱えていたのでしょうか。

上原:一番の困り事は「雨の日に傘が差せないこと」。傘を差すと片手がふさがって車いすをこぐのが難しいんです。もちろん、それまでにも車いす用のレインコートは存在していたのですが、機能もデザインもイマイチのものばかりで。

加藤:すごくよくわかります。真心の場合は、生まれつき筋力が弱いので、どうしてもよだれが出てしまうんですね。だからスタイは必須なんですが、10歳の真心に合うものはほとんどなくて。赤ちゃん用の「よだれかけ」ではなく、小学生の女の子が「身につけたい」と思うようなデザインのアイテムが、どうしてどこにも売っていないんだろう? と思っていました。

上原:そもそも、日本の福祉アイテムって、当事者目線でつくられていないんですよね。例えば、車いす用のレインコートって、車いすごとすっぽり全体を覆うデザインなので、タイヤから路面の雨水が跳ね返ってびしょぬれになってしまうんですよ。つまり、障がい者が自ら移動することを想定していないわけです。障がい者は常に誰かにサポートしてもらう存在だ、という前提で物作りが行われているんです。

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障がいがある人もない人も楽しめる、前例のない服を作る。

―「041 FASHION」プロジェクトでは、そのような「作り手」と「使い手」のギャップを埋める必要があったと思います。商品開発の過程で、難しさを感じる場面はありましたか?

上原:もともと「041 FASHION」は、障がいの有無に関係なく「誰もがカッコいいと思うものをつくる」というコンセプトで始まりました。障がい者だけのための服作りだと、福祉になってしまいますから。でも、機能性を確保しつつ、デザインにも妥協しない服作りは、やはり簡単ではなかったですね。

加藤:何度もサンプルを作っていただきました。私たちは使用感や使いづらいポイントをフィードバックして、それを元にまた新たなサンプルを作る、という。

上原:やっぱり、意見を聞いて作るだけじゃダメなんですよ。実際、サンプル第1号を雨の日に試着したら、サイズが合わずびしょぬれになってしまって(笑)。

加藤:前例のないチャレンジですから、お互いにコミュニケーションを取りながら、試行錯誤で進めていきましたね。

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―商品を作る上で、絶対に外せないポイントとして伝えたことはどのようなことでしたか?

上原:重視したのは「動きやすさ」ですね。雨の日に外出しにくいという問題を解決するには「車いすをこぐ動作を邪魔しない服」というのが絶対条件でした。また、どうしても両脇の部分がタイヤと擦れるので、丈夫で汚れにくいことも重要でした。

加藤:雨の日の車いすは、おしゃれな服や高価なアウターは絶対に着られないですね。

上原:特にスーツやジャケットは、こぐときに裾が横に開くので、汚れやすいんですよ。どんなにカッコいいスーツを着ていても、両脇が泥だらけだったらダサいじゃないですか(笑)。あとは、座っていてもカッコよく見えるデザインであること。従来品のレインコートは、シルエットがてるてる坊主みたいになってしまうんですよ。

加藤:真心の場合も「スタイだけどスタイにみえないもの」というデザイン性を強調しましたね。市販のスタイは、花柄や水玉など、とにかくデザインがワンパターンだったので。


いい意味で期待を裏切る、みんなのためのアイテムが完成。

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―実際に出来上がった商品を見て、どんな印象を持ちましたか?

加藤:完成品は想像の斜め上のデザインで、いい意味で驚きましたね。「こんな発想があったのか」と。まさかワンピースのような形になるとは考えてもいませんでした。やはりプロの仕事は違います。

上原:私も率直に「カッコいい! 」と思いました。これなら障がいがある人もない人も、みんなが着てみたいと思うだろう、と。機能性も十分で、後ろ身頃がセパレートになっているため動いても背中が引っ張られる不快感もないし、ドローコードで身幅を狭くすれば両脇も汚れない。かなり理想的です。

加藤:デザインも使い心地も、控えめに言って最高です(笑)。

上原:このコートのおかげで、外出できる日数と場所が格段に増えました。雨を気にしなくてよくなったので、天候によってアポイントをずらす必要がなくなりました。私たち車いすユーザーにとって、雨天を気にしながら生活するのは大きなストレス。だからこのコートの登場はすごく画期的なことなんですよ。仕事を持つ障がい者にとっては、働き方そのものが大きく変わるほどのインパクトがあります。

加藤:我が家ではお出かけのとき、このエプロンドレスがもはや欠かせないものになっています。これ本当にすごいんですよ。まず、座位の状態でよだれが落ちても、ドレスの裾が膝までカバーするから洋服が汚れない。吸水性と速乾性に優れているので、丸1日着けていても大丈夫なんです。おかげで、お着替えの回数がぐんと減りました。また、着脱は首の後ろで面ファスナーを止めるだけなので、寝たきり状態の方や腕の可動域が狭い方でも使いやすいデザインになっています。

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「素敵だね」の一言が、障がいを持つ人たちの自信になる。

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―今回のプロジェクトで、課題は解決されたということでしょうか?

上原:まさに私たちの課題を「福祉ではなく、デザインで解決したな」と。それこそが今回のプロジェクトの、すごく重要なポイントだと思うんです。

加藤:福祉の文脈だと、どうしても「機能性を重視すること=生活の質があがる」という考え方に偏ってしまう。障がいがあってもおしゃれを楽しみたい、ワクワクする体験をしたい人もいる、という視点が、まだまだ物作りに反映されていないというか。

上原:そこは福祉だけでは解決できない部分ですよね。そして福祉に従事する人たちだけの問題ではなく、当事者である私たちの問題でもある。というか、そもそも当事者が自身のニーズに気づいていないんです。

加藤:障がいがあると、サポートを受ける立場であるがゆえに「これ以上何かを要求してはいけない」という遠慮や気後れを持ちがちです。でも、おしゃれをしてみんなに「素敵だね」と言われたら、誰だってうれしいですよね。それは障がいがあってもなくても、同じだと思うんです。最近は見た目やデザインに意識を向けることがメンタル面に良い影響を与えるとする「チャーミングケア」という言葉も少しずつ浸透してきていますが、まだまだ選択肢が少ないな、と感じます。

上原:そうですね。日本各地で講演するときにこのプロジェクトの話をすると「そんなニーズがあるのか」と驚かれますからね。

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加藤:真心が入院していたとき、このエプロンドレスを見た看護師さんたちがみんな「かわいい! 」と褒めてくれたんですね。「素敵だから、友人にも勧めたい」と写真を撮ってくださったり。真心もとてもうれしそうでした。そういうポジティブな言葉って、障がいを持つ本人だけではなく、周りで支える家族の自己肯定感や自信にもつながるんです。そのことは、もっと多くの人に知ってほしいと思っています。

上原:そういう意味で、今回のプロジェクトは、障がいのない人にとっての当たり前を障がいのある人にとっても当たり前にしていこうという、社会に対する強いメッセージでもあると思うんですよね。作り手と使い手が協力し合いながら、まだ世の中にない価値をカタチにしていく、そういうコラボレーションの新しいフレームワークになっていったらいいなと思います。

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友人と同じ服が着られる喜びをかみ締めて。

今回は、「フレアにもタイトにもなるZIPスカート」が誕生するきっかけとなった関根彩香さんにもコメントを寄せていただきました。新しいスカートで「おしゃれを楽しめるようになった」という関根さん。“装うこと”がもたらした彼女の日常や気持ちの変化をご紹介します。

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「私は12歳のときに怪我をして以来、車いすで生活しています。おしゃれをしたい気持ちはありましたが、車いすでスカートをはくと、お尻にある縫い目や座るときにできるシワでとこずれになるリスクがあるのです。強風でスカートがめくれても自分では直せない点も心配で、ずっと敬遠してきたアイテムでした。そのため“理想的なスカートの形”がなかなかイメージできず、結果的にユナイテッドアローズの皆さんには、かなり細かく要望をお伝えしてしまったと思います。

ところが完成したスカートは、想像以上に素敵な仕上がりでした。目にした瞬間「これを着てどこに行こう?」とワクワクしたほどです。鮮やかな赤は、ユナイテッドアローズの方々の提案でした。今まで挑戦したことのないカラーで不安でしたが、実際に着てみるとすごくかわいくて、なんだか新しい自分を見つけてもらった気がします。他の色にも挑戦してみたい、という前向きな気持ちになりました。」

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「プリーツに施されたコンシールファスナーは着脱しやすく機能的で、車いすでのおしゃれの幅が広がったと実感しています。周りの人からも「素敵なスカートだね」と褒めてもらえるのでうれしいです。みんな興味を示して開閉したがるんですよ(笑)。

“すべての人に心地いい服”というコンセプトは、とても素敵だと思います。機能性とデザイン性が共存することで、障がいのない友人と同じ服を着るという新たな楽しみも生まれました。“ひとりの悩み”を、多くの人たちの喜びに変える。そんな体験を共有できたこと、そして素晴らしいチームと出会えたこと、すべてに感謝しています。」

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