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  • ヒト HITO
  • スタイリスト辻直子さんとのぞく、奥深き和菓子の世界。
  • 2019.02.15 FRIDAY

数々の女性誌で活躍する人気スタイリストの辻直子さん。彼女の代名詞といえばフェミニンで上品なスタイリングですが、実は大の“あんこ”好きというチャーミングな一面も。そんな辻さんと一緒に向かったのは、和菓子好きにはつとに知られる浅草の老舗「亀十」。そこには、スタイリストとして第一線で活躍し続ける辻さんとも共通する、ものづくりに対する深いこだわりがありました。

Photo : Ari Takagi
Text : Rie Karasawa

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生粋のあんこフリーク・辻さんと、浅草の名店へ。

国内外の観光客でにぎわう浅草・雷門通りに、ひときわ目を引く行列があります。人々のお目当ては、大正末期創業の老舗「亀十」の和菓子。看板商品のどら焼きはなんと1日3000個を売り切るほどの人気を誇ります。辻さんも、ここ「亀十」の大ファン。「色々食べてきたけれど、どら焼きならここが一番。何とも言えない塩梅のふわりとした生地とあんこがマッチして、食べたらかならず笑顔になっちゃいます」と絶賛するほどです。

書店に並ぶ雑誌で辻さんのスタイリングを見ない日はないほど活躍中の辻さん。そのエネルギーの源は、どうやら“あんこ”にもあるようです。「一番好きな食べ物はあんこ、一番食べてきたのもあんこ。物心ついた頃からそうで、高校生のときは毎食、和菓子も一緒に食べていたことも。ほかの人と比べたら、ちょっととりつかれているかのようですよね(笑)」。そう語る辻さんにとって、あんこはなくてはならない存在。「家には常にストックがあって。トーストに付けたりお汁粉にしたりと、色々なあんこを楽しむんです」。日々、あんこをさまざまにアレンジして楽しむ辻さんは、まさに“あんこ上級者”。そんな辻さんたっての希望で、和菓子職人が働くものづくりの現場を見学に、「亀十」の工房を訪れました。

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その瞬間ごと、見えないものを感じ取りながら仕事をする。

とある建物から漂ってくる甘い香り……和菓子好きならいても立ってもいられず、辺りを見回してしまうはず。ここは「亀十」の店舗からほど近い、どら焼きの専門工房。扉を開けると、数人の職人さんが忙しく作業をしていました。「生地を焼くこの香りに包まれるのが楽しみだったんです!」と目を輝かせる辻さん。「うまく焼くコツは?」「1日にどのくらい焼かれるんですか?」「焼くときに引く油は何を使っていますか?」……矢継ぎ早に質問が飛ぶほど、興味は尽きません。「私、どんなに有名だったり人気だったりするものでも、自分が『いい』『好き』と思わなければ本当に興味がわかないんです。でも、この光景はずっと見ていられる気がします」。

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辻さんも惚れ込む「亀十」のどら焼きの特徴は、ふわりとしたスフレ状の生地にあります。はちみつやみりんを加えてコクと艶を出す一般的な生地に対し、「亀十」の生地に使うのは、シンプルに砂糖、小麦粉、卵のみ。その分、ふんわりと焼き上げるのは職人の采配次第なのだとか。毎日変わる気温や湿度に合わせ、感覚で焼き加減を調整するのが腕のみせどころ。目に見えない繊細なものをくみ取るそんな技術も、辻さんを魅了してやまないものなのです。「流れ作業に見えるけれど、本当はそうじゃない。瞬間瞬間を感じ取って焼く技術が、身体に染み付いているからそう見えるだけなんですよね。感覚でものを作るって、すごいことだし共感してしまいます」。

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こうした感覚的なものづくりは、実は辻さんの服選びにも共通するスタイルです。「私は流行りにそんなに詳しくもないし、すごく興味があるわけでもなくて。だから『これいいな』と手が動くのも、感覚重視。頭でコーディネートを考えたりして選ぶのではなく、感覚に従う方がスムーズだし絶対楽しいんです」と辻さん。「でもスタイリストというのは、なぜそのアイテムを組み合わせるのか、ある程度ルール化しなければいけない仕事。自分の感覚を咀嚼してどうみなさんに伝えるべきか、いつも考えています。たとえば誰もがラグジュアリーブランドを着るわけではないけれど、そういうものが持つよさを、どうリアルに落とし込めるか。そこをきちんと伝えたいし、自分にはそういう役割があると思うんです」。

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和菓子とファッション、共通するものづくりへの姿勢。

「亀十」のどら焼きに挟まれたあんこは、丸3日間かけて丁寧に作られたもの。北海道十勝産の小豆を一度煮て冷まし、砂糖を加えて再び煮てから、ばんじゅうという容器で寝かせる“蜜づけ”という工程を経ることで、小豆の粒の存在感をしっかり残した上品な味わいが生まれます。創業から100年近くあんこを作り続けてきた「亀十」は、いわばクラシックな江戸のお菓子屋さん。が、一見変わらないようでいて、時代に合わせて変化するのもまたクラシック。それを物語るのが、どら焼きとともに人気を博す最中(もなか)です。「うちの最中は、皮からあんこが飛び出している独特の形なんです」と話すのは、亀十の井上さん。「戦後の貧しかった時代は、小豆も砂糖もたっぷり使うのが贅沢でした。この形は、『うちの最中はこんなにたっぷりあんこが入っていますよ』と伝えるため。当時はとにかく甘いあんこでしたが、現代では砂糖の種類も量も変え、甘さ控えめになりました。でもこうした形状に『亀十』らしさを継承しているんです」。

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あんこ好きが高じ、自分であんこを炊くこともあったという辻さんも、「やっぱり自分で作るより、断然職人さんが作る方が心地よくもちろん美味しい。きちんと甘い、あんこが美味しいと感じるバランスの甘さなんです」と絶賛。頑なに変わらないことがベーシックなのではなく、変化を重ねながらベーシックになる。老舗の名物菓子には、歴史を経てきたからこその本物の美味しさが宿ります。「当たり前にやっているようで、そこにはきちんと理由がある。素敵なお仕事ですよね。しかもそれが機械化できない、人間の手でひとつひとつ作られ、体温の通った感覚が大切にされているのもすばらしいなと思います」と辻さん。

人の感覚が生み出す手仕事の妙や、変化しながら完成していくベーシックなスタイル……一見正反対のものに思える和菓子とファッションには、たくさんの共通点がありました。「亀十」の味が多くの人に愛され支持されてきた背景。そこには、時代にフィットするモダンな感覚と普遍的なよさを併せ持つ辻さんのスタイリングが、どんなときでも私たちを魅了する理由が重なってくるようです。最初は意外にも思えた辻さんのあんこ愛も、もしかしたら必然だったのかもしれません。着ていた服に染み付いた甘い香りとともに、ものづくりへの感動とリスペクトが心地いい余韻を残す下町訪問となりました。

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