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  • “誰もが楽しめる服作り”へ「041」の挑戦。キーパーソンのふたりが語る、開発ストーリー。
  • 2018.04.17 TUESDAY

病気や障がいの有無を問わず、誰もがおしゃれを楽しめる社会を作りたい――。〈UNITED CREATIONS 041 with UNITED ARROWS LTD.(ユナイテッド クリエイションズ オーフォアワン ウィズ ユナイテッドアローズ)〉(以下、UNITED CREATIONS)は、そんな思いを共有するソーシャルユニット「Social WEnnovators(ソーシャル・ウィノベターズ)」とユナイテッドアローズ社のコラボレーションによって始まりました。プロジェクトの仕掛け人であり、多様な障がい者支援活動をプロデュースするSocial WEnnovators・澤田智洋さん(写真左)、そしてプロダクト製作のディレクションを担当したユナイテッドアローズ クリエイティブディレクション担当 上級顧問・栗野宏文に、開発の経緯からプロジェクトの未来までを語ってもらいました。

Photo:Takeshi Wakabayashi
Text:Risa Shoji

障がいを持つ人々の多くが直面する「洋服の悩み」。

—今回のプロジェクトはどのような経緯で始まったのでしょうか?

澤田:そもそものきっかけは、日本最大の寄付サイトを運営するジャパンギビング、日本テレビ、そして私が所属する電通の有志メンバーで「Social WEnnovators」というチームを2016年に立ち上げたことに遡ります。「WEnnovators」という造語には、「I(私)」ではなく「WE(私たち)」、つまりみんなの力で社会を変えていこうという意味が込められています。その活動の一環に「041(オーフォアワン)」というプロジェクトがあるんですね。これは“顔の見えない大勢”ではなく“具体的な誰かひとり”の課題を起点に、プロダクトやサービスを生み出す試みです。これまでスポーツや電車移動をテーマとした新しいサービスの開発に取り組んできました。

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澤田:その取り組みの第3弾が、ファッションをテーマにした今回のプロジェクトです。

栗野:お声がけいただいたのはちょうど1年前、2017年の春先でした。澤田さんから「病気や障がいなどの理由でおしゃれを諦めている人たちのために、一緒に洋服を作りませんか」と提案いただいたんです。

澤田:僕には今年5歳になる息子がいるんですが、彼には生まれつき視覚障がいがあります。より良い子育て方法を模索する中で、障がいを持つ人たちとの交流が始まりました。一緒に飲みに行くほど親しい間柄になると、身体の機能に障がいを抱える人たちの多くが「着ること」に悩みを抱えていることがわかってきました。骨格や体型にフィットするサイズがなかったり、筋力が弱いためボタンが留められなかったり、介助がなければ着脱そのものができなかったり……。そんな障がい者の現実を何とかしたい。そんな折に、「Social WEnnovators」のメンバーのひとりである佐藤大吾さん(一般財団法人ジャパンギビング)のつながりを通じて、ユナイテッドアローズ社さんに協力をお願いしたんです。

栗野:当社は創業以来、“ファッションを通じて社会に貢献する”という思いで活動してきました。それゆえ今回のオファーは、私たちが本質的に大事にしていることに共感してもらえた気がして、率直にうれしかったですね。一方で、私たちがこれまでアクセスできていなかったところに、洋服を必要としている人たちが大勢いることにも気付かされました。

澤田:実は、ユナイテッドアローズさんとのご縁につながるエピソードがもうひとつありまして。僕たちが活動を通じて知り合った男性の話です。彼は全身の筋力が低下する進行性の病気を患っているんですが、まだ症状が軽かった頃、ユナイテッドアローズの服のデザインが好きでよく着ていたそうなんです。現在は病状が進み、おしゃれな洋服は着られなくなってしまった。でも「クローゼットの中に、今も大切に取ってある」と。なぜなら「その服を所有していることが誇りにつながるから」と言うんですね。

栗野:最初のミーティングでそのエピソードを伺ったときは、グッときました。たとえ着られなくなっても、ずっと僕たちが作る洋服のファンでいてくれる人がいる。洋服屋にとってこれ以上の幸せはないじゃないですか。私たちの知識や経験が、そんな風に思ってくれる人たちのために役立つなら、全力でお応えしたい。そう思いました。

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誰かひとりの本質的なニーズが、新しい普遍を生む。

—その後、プロジェクトはどのように進んでいったのでしょうか?

栗野:まず、やるからにはしっかりビジネスとして取り組もう、と。一回限りのボランティア企画ではなく、「障がいの有無を問わず楽しめる服作り」というチャレンジですから、継続させなければ意味がない。また、障がいを持つ方に必要な機能を満たすと同時に、健常者の人たちを魅了するファッション性も実現しなければなりません。そのためには、しっかり会社がオーソライズして、社員たちにも業務として取り組んでもらうべきだと考えました。そこで社内で有志を募ったところ、予想以上の反響がありました。ポジティヴなサプライズでした。「誰かのために自分のスキルを役立てたい」と考えている人々が、こんなに社内にいたのか、と。結果的に、デザイナーやパタンナー、マーチャンダイザーなど多様なメンバーが集まり、部署横断型の“ドリームチーム”が編成されました。

澤田:僕の方では、プロダクト開発の起点となるニーズを深掘るため、障がいを持つ当事者の方々に協力をお願いしました。最終的に、障がいの種類や年齢が異なる5名にターゲットを絞り、それぞれのニーズに合った5つのアイテムを作ることに決まりました。その上で、ユナイテッドアローズのチームのみなさんにはこんなお願いをしたんです。「できれば、服作りの対象となる障がい者の方と友達になってください」と。トップダウンで服を作ってあげるのではなく、友達の悩みを解決するために力を貸す、というフラットな立ち位置で参加してほしかったんです。やっぱり、友達にならないと抽出できない悩みとか課題ってあるじゃないですか。

栗野:「一緒に作る」というスタンスが大事ですよね。友達の悩みを解決し、その人が笑顔になったら、自分もうれしい。誰かのためなんておこがましい。自分が楽しいからやる。僕自身は、そういう自分貢献に近い感覚でプロジェクトに取り組んでいました。おそらくチームのメンバーたちも、みな同じ気持ちだったと思います。

—実際に服作りが始まったのはいつ頃ですか?

栗野:昨年の秋頃です。協力者の方々にヒアリングを重ね、必要な機能やデザインを実際の服作りに落とし込んでいきました。プロトタイプを作り、試着してもらって改善を重ねる。これを何度も繰り返して、理想に近い形に近づけていったんです。このプロセスがすごく新鮮でしたね。現代の服作りはマス・マーケティングに基づく大量生産が基本です。でも、もともと洋服屋はお客様一人ひとりに合わせたオーダーメイドから発展してきたもの。そういう意味では原点回帰とも言える。今では失われてしまった「お客様の声を直接聞く」という行為を、社内のデザイナーやプランナーたちが体験できたことは、私たちにとっても非常に貴重な経験になったと思います。

澤田:誰かひとりの本質的なニーズを深掘りしていけば、そこから新たな普遍的価値を抽出できる。僕はそれこそが今の時代に必要な新しいマーケティング活動だと思っているんです。実際、サンプルが上がってくるたびに、機能やデザインがどんどん洗練され、深化していくのがわかるんですよ。最初のサンプルには、不必要なデザインや機能があったり、ニーズの取りこぼしもあったかもしれませんが、最終的には機能性とファッション性を兼ね備えた完成度の高いプロダクトが出来上がったと思います。

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栗野:ちなみに、澤田さんはどのアイテムが一番気に入りましたか?

澤田:フレアースカートですね。これは画期的ですよ。

栗野:このスカートは、身体に麻痺があり、日常的に車いすを使用されているいる関根彩香さんのニーズを起点に開発したものです。車いすに巻き込まれないよう後ろの丈を短くし、着用時には穿きやすいタイトシルエットでも、お出かけの際はフレアを楽しめるよう前面には5本のファスナーを付けました。一方、立位で着用すると、アシンメトリーな丈とファスナーの配置がアバンギャルドな印象になる。車いすユーザーにとっては機能性であり、そうでない人にとってはデザインになるわけです。

澤田:“障がいがあってもなくても楽しめる服”という意味では、象徴的なアイテムですよね。

栗野:僕たちはあくまでも洋服屋ですから、機能性だけを重視した“介助支援道具”を作るつもりはないんです。「誰もが楽しめる服作り」を福祉の文脈にしてしまったら、意味がない。ファッションは、あくまでも洋服を着る人の気持ちを明るくしたり、ポジティブにしたりする“気持ち支援道具”なんですから。


インクルーシブから生まれる、新しいイノベーション。

—今回作られたアイテムは4月上旬にオンラインで受注販売が開始されたそうですね。今後、どのような展開を目指していくのでしょうか。

栗野:まずは新しい服作りの形を世に問いかけることが大事だと思っています。新しいチャレンジに課題はつきものです。こればっかりは、トライアンドエラーで進めていくしかありません。

澤田:新しいマーケティング手法による新しい服作りを、社会はどう受け止めるのか。まずはそこを見極めたいですね。道無き道を行く大変さと同時に、ワクワクする楽しさを感じています。

栗野:今回あらためて気付いたのは、障がいを持つ方に共通する「サイズ」「着脱」「デザイン」「素材」といった悩みは、レベルの差はあるものの、誰もが持っている悩みと同じだということ。つまり、もし〈UNITED CREATIONS〉でこうした悩みを解決できたら、いわゆる既製服、通常の服作り自体も進化すると思うんです。例えば、大量生産を前提とする今の服作りは、毎年膨大な衣類廃棄物を生んでいます。でも〈UNITED CREATIONS〉で、個々人のニーズに合った洋服を受注生産するシステムを確立できたら、衣類廃棄物という社会問題を解決できるかもしれない。大げさかもしれないけど、可能性はゼロじゃない。

澤田:世の中の課題を完璧に解決することはできません。だからこそ、一人ひとりが誰かの悩みに向き合い、学びを深めることで、社会が1ミリずつ良い方向に進んでいけたら理想的ですね。

栗野:今回、ひとりのニーズから画期的なフレアスカートが生まれたように、障がいを持つ方々の感性や視点から、今後も新しい言語や概念がどんどん誕生するかもしれない。そういう“インクルーシブから生まれる新しいイノベーション” って、社会貢献云々を抜きにして、単純にワクワクしますね。僕は、業界全体が保守化するファッションの世界にこそ、そういうイノベーションが必要だと思っています。新しい刺激によって、解体と再構築が起こり、ファッションそのものの進化につながっていく――〈UNITED CREATIONS〉が、そんな未来への第一歩になれたらうれしいですね。

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