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  • 順理庵・重松 理が考察。 結城紬に見る、新しい装いの可能性とは。
  • 2018.02.01 THURSDAY

国の重要無形文化財であり、ユネスコ無形文化遺産にも登録されている結城紬。日本の美意識を伝える「順理庵」には、そのユネスコに登録された技術の流れを汲む結城紬の柔らかく、しなやかで軽さを一段と高めるために新しい技術を導入した生地を使ったジャケットやショールなどが並びます。順理庵のプロデューサーであり、ユナイテッドアローズの名誉会長である重松 理が、そのものづくりのためのパートナーとして選んだのが、茨城県結城市に拠点を持つ結城紬の老舗、奥順です。今見直されつつある日本の美意識、伝統、精神性。結城紬の伝統や歴史から見えてくる、その新しい可能性。未来に残すべきものについて、奥順の代表取締役である奥澤武治さんとの対談が実現しました

Photo:Go Tanabe
Text:Jun Namekata [The VOICE]

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必然と偶然が重なった、結城紬との出会い。

_結城紬で洋服を仕立てるというアプローチはまだまだ稀なものだと思います。まずは重松さんがそれに取り組むことになったきっかけを教えていただけますか?

重松:もちろん結城紬の存在はかねてから知っていました。けれど、非常に高価なものですからね。実際に所有するというところまではなかなか至らずにいました。あれは確か5年前くらいだったかな、縁あって着物を作る機会を得まして、3着…いや羽織を含めたら5着作ったんです。その時は個人的に楽しむためだけのつもりだったのですが、そのあとユナイテッドアローズの展示会で結城紬を使った服が展示されているのを見て…。

奥澤:ベストの背中の生地にうちの絣(かすり)を使ったんですよね。

重松:そうでした。

奥澤:プルミエール・ヴィジョンというパリで行われる見本市に私共が出展した際に、現地で(ユナイテッドアローズ クリエイティブディレクターの)鴨志田さんとばったりお会いしたんです。その時に随分と絣に関心を示してくださってね。「ひさしぶりにゾクゾクした」っておっしゃるので、どういうことですかとお尋ねしたら「結城紬の絣をしばらく見なかったが、やはり素晴らしい」とおっしゃってくれたんです。感動しましたね。そういう審美眼を持っていらっしゃる方は少ないですから。それで、ベスト用の生地として私どもの生地を納めさせていただいたというわけです。

重松:私も昔から絣が好きでね。世界各国の絣を個人的に集めていたし、シャツとして製品化したこともありました。

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_それがきっかけで、重松さんも順理庵で商品化することに?

重松:最初は、ユナイテッドアローズで買い付けた生地の残りでジャケットを作ったんです。これが柔らかく軽く、すばらしい出来でした。それで改めて結城紬を見に奥順さんへうかがい、本格的な展開が始まりました。

奥澤:嬉しかったですね。やはり手作りの技の魅力というのは生地を見ただけではどうしてもわからない。ほんの数メーターの生地が何万もすると言われたって、プロだってなかなか理解はできません。でもその過程や文化伝統をより深く知っていただき、実際にモノを見て触っていただくことが、その価値を理解するいちばんの方法なんです。

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生活に寄り添う、本質的な価値がある。

_実際に扱ってみて、改めて感じた結城紬の魅力を教えてください。

重松:やはり柔らかさとしなやかさ。そして手紬であるがゆえに絹(シルク)でありながら暖かさがある。数ある日本の生地の中でも、とても優れたものであると思います。

奥澤:それは着れば理解していただけると思います。軽くて、しなやかで、非常に着やすい。着物で着る機会はなかなかないと思いますが、洋服でもそれは実感していただけると思います。ちなみにルイ・ヴィトンさんも、過去2度ほど私どもの結城紬を使った服をパリのコレクションで発表してくださいましたが、残念ながら製品化には至らなかった。やはりコストのハードルが高いんですね。

_日本の伝統的な着物の生地というと分かりやすい豪華さや見た目に華やかなものが多い中、結城紬は質実剛健。道具としても価値が高い印象です。

奥澤:結城紬は江戸時代にその花が開くのですが、基本的に男の着物に使われていたもの。主に武士と町人が着ていました。ですので、必然的に質実剛健になりますね。ちなみに私は“シャレ着”って呼んでますけどね(笑)。そういう佇まいにむしろ洗練性を感じるじゃないですか。

重松:日本の伝統と歴史に称えられて今も残っているものですから、当然本質的な価値を備えていますよね。それを伝承することが私の使命です。…仕事とは関係なくつい自分のものを買ってしまうことも多いけれど(笑)。

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奥澤:高価なものではありますが、ただの贅沢品ではない。文化伝統を身につける喜びと、道具としての本質的な価値の両方があります。例えば、結城紬は洗濯を繰り返すとどんどん良くなっていくんです。糊が取れて、また洗っていく中で真綿のケバが取れて、絹の魅力が際立ってくる。親子三代と言われるほど長く愛用できるものです。また、絣は裏表が関係ないのも特徴。着物であれば裏表で着分けることで同じところに摩擦が生じないので長持ちするという利点があります。

重松:それに優れた生地は用途を選ばない。着物はもちろん、ジャケットにもなればワンピースにもなる。ショールだってできます。順理庵では今後、様々な提案をしていきたいですね。


巡り巡って、再び日本に戻ってきた。

_このところ、日本の伝統文化がフォーカスされることが増えているという実感があるのですが。

重松:物の価値が見直され、残していこうという機運は高まっていると思います。特に日本は貴重な伝統や文化がまだ残っている数少ない国。文化に対する憧憬が民族性として残っていて、そこに海外の人たちも魅力を感じるのだと思います。この流れは加速していくと思います。

奥澤:海外に行くとそれをさらに明らかに感じます。日本の衣食住に対して関心を示す方は本当に多いんです。反面、残念ながらこういった文化財は残すこと自体が難しくなっています。原料の価格の高騰や職人の減少なども原因の一つ。それに、意外に思われるかもしれませんが、結城紬を知らない人も多いんです。私は年間の多くの時間を地方行脚にさいてきましたが、呉服店でも結城紬を知らない方がいるくらい。でも説明して、見て触っていただければ、多くの人に理解してもらえる。その活動は続けなければいけません。

重松:カシミアがいいとか、シーアイランドコットンがいいとか、そういうこととは全く違う次元の話なんですよね。積み重なっているものが違う。いいものを求め続けて長い間“洋の服”を紹介してきましたが、無い物ねだりをしながら回り回ったら、また日本に戻ってきた。面白いものです。

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無理にいじる必要はないし、なんでもできると思っている。

_実際に順理庵で結城紬を製品化するにあたり、どのようなプロセスを経て完成に至ったのか教えていただけますでしょうか?

重松:基本的には復元、復刻を基本としています。すでに完成されたものですので、あえて色々といじる必要はありませんから。色だけ変えさせていただいています。

奥澤:今日、重松さんが着ていらっしゃるジャケットは「立涌(たてわく)」という柄。伝統的なものですが、色使いが斬新ですね。柄を合わせて一本一本染めた糸を織りあげるわけですからとても手間暇がかかります。

重松:先ほども申し上げた通り、優れた生地は用途を選びません。今はジャケットやショールを中心に製品を展開していますが、今後はもっと幅広いアイテムに落とし込んでいければと思っています。それこそいろんなものに応用できますから、お客様のご要望に合わせてモノを作り出せたらと思っています。

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_和のものを洋装に取り入れる難しさはなかったですか?

重松:今は無いと思っています。それはあくまで一つの柄だと捉えていますので。むしろファッションとしての面白みを感じますね。


この波はもっと大きく太くなる。

重松:精神性というものはなかなか言葉では伝えられないものですが、歴史に研磨されて残ってきたものはやはりいい。それは見て、触って、実際に着てもらうのが最善の方法です。インスタントな服が増えている反面、こう言った後世に繋いで行く服の重要性も世界的に見直されていますし、それはこれから先もっと大きくて太い波になるのではないかと私は本気で思っています。

奥澤:時代が進化するほど、反比例するように手作業のものの重要性が浮き彫りになるんじゃないかな。時間とお金を費やして温泉に行くのと同じ。その豊かさは失ってはいけないと思うんです。

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