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  • 鴨志田康人、小木基史が語る。GQ主催「BNMD」授賞とユナイテッドアローズの真髄について。
  • 2017.10.19 THURSDAY

アメリカのメンズファッション誌『GQ』が、過去10年間に渡って毎年発表してきた、”ベスト・ニュー・メンズウエア・デザイナーズ”賞を、今年はユナイテッドアローズが受賞しました。それに伴い、アメリカン・カジュアルブランド〈GAP〉との限定カプセルコレクションも発表。全世界の〈GAP〉店舗で一斉に販売されています。賞の選出者である『GQ』のクリエイティブディレクターのジム・ムーア氏は授賞式のパーティでこう語りました。「今回から候補対象を世界の優れたデザイナーとブランドに広げるにあたり、受賞者の中にヨーロッパと日本のデザイナーを必ず入れたかった」と。栄えあるこの賞をどのようにしてユナイテッドアローズが授賞することになったのか? その経緯と〈GAP〉とのカプセルコレクションについて。そこから見えたこれからの展望とは? パーティに参加するためにNYを訪れた、ユナイテッドアローズのクリエイティブ・ディレクターの鴨志田康人氏と、ユナイテッドアローズ&サンズ ディレクターの小木“POGGY”基史氏に、パーティの翌日、話を伺いました。

Photo:Omi Tanaka
Text:Momoko Ikeda

”デザイナー”としてこの受賞を本当に受けて良いのだろうか? という気持ちがまずありました。

ーまず、授賞の経緯と感想について教えていただけますか?

小木:今年1月のミラノコレクション中にUS『GQ』クリエイティブディレクターのジム・ムーアさんから今回の賞のお話をいただきました。これまではアメリカ国内のデザイナーとブランドが対象だったのを、今年から世界中を対象として候補を出している、そこでユナイテッドアローズを選びたいというお話でした。最初は、ぼくたちはお店であってブランドではないので、ありがたい話だけれどお断りしたいというお返事をしました。ですが、ジムさんは、「東京を何度か訪れている中で、ユナイテッドアローズにも立ち寄っている。お店のレベルも高く、かつ鴨志田さんもブランドをやっていたり、オリジナル商品もあったりする。その全部を評価してユナイテッドアローズを選びたいんだ」と熱く語ってくれました。その気持ちを受けて日本に戻ってから社内で話し合い、賞をお受けすることが決まりました。

鴨志田:ぼく自身はデザイナーという自覚がまったくないし、ぼくらはあくまでもリテーラー。小売のプロではあるけれど、ものづくりという点では、いわゆるデザイナーとは立ち位置が全然違うと思っているんです。もちろん総合的なプロデュースする中でものづくりにも関わってはいますが、”デザイナー”としてこの受賞を本当に受けて良いのだろうか? という気持ちがまずありました。クリエーションに命をかけて取り組んでらっしゃる方たちに対して気が引けてしまう、というか。でも、ジムさんの熱い気持ちも理解できるし、これをきっかけにした世界とのつながりを考えると、その期待に応えられるようにがんばっていけば良いのかなと思い、このプロジェクトが始まりました。

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(上)パーティ会場には、今回賞を授賞した、フランスの〈アミ〉、アメリカの〈キンフォーク〉、日本の〈ユナイテッドアローズ〉それぞれのポップアップショップが作られ大盛況。(下)左から、〈ユナイテッドアローズ〉の小木さん、鴨志田さん、『GQ』のジム・ムーアさん、〈キンフォーク〉のジェイ・ペリーさん、〈アミ〉のアレクサンドル・マテュッシさん。

ー〈GAP〉とのコラボアイテムの制作はどのように進んだのでしょうか?

小木:ユナイテッドアローズを知っていただいている方も少なからずアメリカにはいるとは思うのですが、今回のカプセルコレクションは、本格的に取り上げてもらえる初めてのチャンスだと思いました。そこで、ユナイテッドアローズを築き上げてこられた鴨志田さんと、ぼくのような今のアメリカに響く可能性のあるテイストを持つ異色の2人がセットになってユナイテッドアローズを世界に紹介するべきじゃないかという話になりました。鴨志田さんの良さと、ぼくの良さとをミックスし協力しながらものづくり進めていくというやり方ですね。鴨志田さんのテイストを存分に発揮していただきつつ、ぼくはそのスタイルに自分なりにアレンジを加えていきました。例えばユナイテッドアローズ&サンズのオリジナルの刺し子デニムや、以前にコラボレーションしたNYのアーティスト、バロン・ボン・ファンシーに文字を書いてもらったパーカーやTシャツがそうですね。これまで鴨志田さんと一緒にやらせていただくことはなかったので、とてもおもしろかったですね。リテーラーとして、色々なテイストをミックスする、というのもポイントだったと思います。

鴨志田:海外から見たときに、日本のファッションというのはミックスすることが“らしさ”として評価されています。色々なものを合わせてドレスダウンしたり、カジュアルアップしたり。海外の方たちからは、そこにおもしろさを感じてもらえている。それを素直にやればいいのかなと思いました。ぼくのドレッシーなスタイルと小木のストリートな感覚とがうまく掛け合わされたら、ちょうどそういう感じになるだろうと。実際に良い具合に落とし込めたと思います。

ー2人の良いところが合わさっているということですね。

鴨志田:ただ〈GAP〉の店頭に商品が置かれえるということを考えると、どこに焦点をおけばいいかが難しかったですね。〈GAP〉にも世界観があるので、ドレスシャツはないかなあとか、足元はスニーカーに合うスタイルの方がいいかなあ、とか色々考えましたね。でも最終的には我々のテイストを崩さずに良いバランスに仕上がりました。

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(左上)会場には〈GAP〉とのカプセルコレクションのメインビジュアルがいち早く登場。(右上)常に人だかりができていたユナイテッドアローズのポップアップブース。(左下)今回のカプセルコレクションがその場で販売されていた。手前の刺し子のジャケットなどは即完売。(右下)ニック・ウースターさんと鴨志田さん。

小木:ぼくが99年に新宿の「フラッグス」のオープニングスタッフとして働いていたとき、〈GAP〉が下のフロアにあったんです。〈GAP〉や〈ラルフ・ローレン〉のアイテムと自社のアイテムをミックスして着ていたのを覚えています。ぼくら世代のそういう感覚が、鴨志田さんたちの世代が築いてこられたスタイルを崩してしまわないだろうか? という不安も正直ありましたね。また〈GAP〉とのやりとりの中で、ジャケットは売れないからやめてほしいと言われ続けていたのですが、ジャケットはユナイテッドアローズのアイデンティティだから絶対につくりたい! と粘り強くお願いをして、最終的にOKを出してもらったというエピソードもあります。結果的に、オンラインでは初日にバルカラーコートが完売。少し形は違いますが、ジャケットを買ってくれる人がいるんだなあと可能性を感じましたし、今後どうやって攻めていけば良いのか、活路を見出せたような気がします。こういう風に、消費者にストレートに響く感じも、アメリカらしくておもしろいなと感じました。

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時代に合った形にリクリエーションすることが我々の技であり強みです。

ー鴨志田さんはオリジナルのブランドで。小木さんはソーシャルでも世界的に知られていますが、ユナイテッドアローズとして大きく世界に出ていくのは、これが最初のきっかけとなるのではないでしょうか。アメリカでも商品が買えるということも今回は大きな出来事だと思いますが、実際に体感されていかがでしたか?

小木:海外でユナイテッドアローズの商品が買えるということが、ちょっとユニークな形でスタートしたと思いますね。〈GAP〉と一緒にやってみて、チノパンなどのリーズナブルな価格帯のものづくりはさすがだなあと思いました。その一方で、日本の素材の良さや繊細なつくりといった、自分たちの良い部分にも改めて気付きました。

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鴨志田:弊社のスタッフたちがユナイテッドアローズってなんだろう? と、そのアイデンティティを考えるときに、提供する商品にこだわりがあるということが、いちばんの強みだろうと思います。リーズナブルでマスマーケット向けのものよりは、つくりの良いもの、こだわりの詰まったものの方が、我々にとっての本筋です。その考えを改めて理解しなければならないと思いました。会社としては大きくなってきているので、当然いろいろな方々に向けて商品を提供していきますが、核となるところは、モノの良さを理解してくださって、それが好きな方々に響く商品を提供すべきで、結果的にそれが広く浸透していく。その順番を間違ってはいけないなと思いました。

ーなるほど。

鴨志田:昨日、アメリカの〈GAP〉の社員たちを前にレクチャーをしたのですが、ユナイテッドアローズってどんな会社なの? という質問がありました。改めて弊社のスタイルについて自分の中でも振り返って考えましたね。そのときに思ったのが、他の国は他国のものを取り入れるということをあまりしないですが、日本人はそこが柔軟で、とてもフラットでフレキスブル。私はビームス時代からこの業界にいて、ポパイ世代でアメリカン・カルチャーの影響から入って、その後ヨーロッパのおもしろさを知ったり、海外出張で素敵なお店を回ったり。そういった経験すべてがミックスされ、一体化して、今の私のスタイルが形成されていると思うんです。私たちがスタイルを提案するときも、そういった多くの引き出しから、今だったらこれだな、という感じで引っ張り出して時代に合った形にリクリエーションしている。それこそが我々の技であり強みですよね。引き出しの多さがモノをつくったり、モノを買い付ける人の強みでもあるんです。そこを磨くことが大事ですね。そんなことを昨日レクチャーしながら思いました。

ーそれは確かに共感できるお話しですね。

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鴨志田:70年代や80年代には、小さいけれど本当におもしろくてこだわりの強いお店や、その都市のスタイルや特徴が色濃く出ているようなお店がたくさんありました。今はワールドワイドになりすぎてしまって、どこにいっても同じようなお店ばかり、さみしいですよね。そういうのを知ってるからこそ、もっとこうしたいという思いもどんどん出てくる。時代は流れても、変わらない良さをユナイテッドアローズでは表現したいなと思うんです。パリのあのショップスタッフがかっこよかったなとか、そんな刺激を若い人たちにも知ってもらいたい。いまのままだと物足りないんじゃないかなと思いますね。

小木:アメリカでは、きちんとジャケットを着ている人をそんなに見たことがなかったんですが、『GQ』のオフィスがあるワールドトレードセンターあたりを歩いてみると、サファリジャケットにシャツとタイ。ストレートチップを履いたような、ちゃんとした格好の人がいたりして。いままで見えてなかっただけで、鴨志田さんのお話のように、自分の見る視点をもっと広げていかないといけないなと感じました。


ユナイテッドアローズの真髄でもあるフォーマルの良さをこれからも伝えていきたい。

ー世界に視野を広げたとき、ユナイテッドアローズとして今後の方向性と、次世代へのメッセージを教えてください。

鴨志田:スタイリング、つまりは着こなしがローカルのおもしろさを引き出しますよね。モノそのもので差別化をしたり、その人らしさを出すのは難しい。靴をどう合わせるのか? そういうところでその人らしさや、その国らしさが出せると思うんです。そういう部分にとことんこだわり、追求していくことで、“らしさ”を出していくことが、ユナイテッドアローズの強みです。セレクトショップで大事なのは、良いモノを選び抜く力とそれを着こなすセンス。それがすべてです。日本のリテールショップの強みは、接客のきめ細かさやサービスだとよく言われますが、それを必要としない国もある。海外に小売として出ていくとき、そういったサービスを売りにしても多分通用しないと思うんです。ヒトではなく、モノのクオリティとそのスタイリングを磨きあげることで、世界でも通用していくのではないでしょうか。和食が世界に通用しているように、いかに繊細で、とことんこだわって貫いているかが強みになる。そう考えるとユナイテッドアローズが世界に通用するかというと、まだまだ到達してないかなと感じますね。そういったところが今後の課題だなと思います。

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鴨志田:この仕事に長くたずさわってきて、自分で服を買うようになってから40年以上経ちます。その経験から普遍的なものの良さを体感することができました。高校生のときに買った服でも、今見たときにやっぱりいいなと思うことがあるんです。そういったことを継承していくのが、お客様を裏切らないことだと思います。自分でいろいろな服を着たり、物事を体感することで、引き出しを増やしていかなければならない。そんなことを次の世代に伝えていきたいですね。

小木:例えば、カジュアルなスポーツウエアは、これからもっと浸透していくと思うんです。でもスポーツ選手でも晴れの舞台ではジャケットを着ますよね。ぼくが世の中の人たちから少しずつ認めてきてもらえたのは、着方はどうであれ常にジャケットをリスペクトして着てきたからだと思うんです。それがあって、ストリートファッションの人だけじゃなく、さまざまな人が自分を知ってくれた。ジャケットを着ることでコミュニケーションが広がる。ぼくはそれを実感してきたので、ユナイテッドアローズの真髄でもあるフォーマルの良さをこれからも伝えていきたいですね。

鴨志田:ジャケットを着るということは、オフィシャルな場面で社会人として必要なことだし、生活のメリハリにもなりますよね。貴族社会が作ったルールは徐々に淘汰されていくと思うんですが、ジャケットを着ることで自分を着飾る楽しさはファッションが持つ魅力でもあります。気持ちを盛り上げるためや、相手を敬うためにドレスアップする。フォーマルな着こなしを楽しむことも伝えていきたいな思いますね。自分らしさをどう表現するかは、人一倍気にしたい。「カッコつけなきゃおもしろくないじゃん」。そんな気持ちをいつまでも持っていたいですね。


ウェブマガジン「フイナム(HOUYHNHNM)」でも、受賞記念パーティの様子と2人のインタビューを掲載しています。
http://www.houyhnhnm.jp/feature/109072/


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