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  • 創業1624年「唐長」11代目当主、千田堅吉さんが考える京唐紙の伝承とこれから。
  • 2017.08.24 THURSDAY

2016年オープンしたユナイテッドアローズ 六本木ヒルズ店(UA六本木ヒルズ店)で取り扱いが始まった唐長の唐紙。唐長は、創業1624年という京都の歴史ある唐紙工房であり、これまで唐紙を使った製品は他店に卸すことはありましたが、1枚の大きな紙として店舗で販売するのはUA六本木ヒルズ店が初めてだったそう。11代目当主の千田堅吉さんに唐紙と唐長の歴史、同店に唐紙を卸すことになった経緯、今後の活動についてうかがいました。

Photo:Kousuke Matsuki
Text:Junko Amano

390年以上続く、現存する唯一の唐紙工房。

―まず唐紙とはどのようなものですか?

千田:唐紙とは奈良時代、中国の唐より伝えられた紙です。平安時代には京都で作られるようになり、京都で作られたものを「京唐紙」と呼ぶようになりました。その頃は文字を書くために用いられていましたが、鎌倉、室町時代からは襖や壁紙などの室内装飾に用いられるようになり、江戸時代には、武家や公家の屋敷、茶人の茶室、商人の町家など、さまざまな場所を彩るようになりました。

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―唐長はもうすぐ創業400年を迎えられますよね。

千田:はい。元々、初代は、御所に関わる武士でしたが、刀を置き、職人の道に進んだそうです。当時、京都・鷹峯に、本阿弥光悦と俵屋宗達が主宰する光悦芸術村があり、そこで嵯峨本の唐紙作りに携わるようになったそうです。以降、唐長は琳派の流れを受け継ぐ唐紙を手掛けるようになりました。

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―今、日本で現存する唯一の唐紙工房と伺いました。

千田:そうです。明治に入ると近代化が進み、印刷機も導入され、京唐紙は衰退し、同業者はどんどん廃業してしまいました。その頃、一番器用やった同業者は大日本印刷やね(笑)。うちのご先祖さんは不器用な人やったし、それに江戸時代から御所、寺社、三千家の御用を勤めていたので、新しいことをやるのにブレーキがかかったんです。本当に苦しい時代やったんでしょうね。ご先祖さんの日記が残っていて、父が見たらしいんですが、代々受け継がれる板木を風呂を焚くために250枚ぐらい処分したって書いてあったそうです。木が乾いてたしよく燃えたと思います(笑)。私のおやじも自分の代で廃業しようと思ってましたね。その頃は、高度経済成長期で、唐紙はぜんぜん必要とされなかったんです。私は商社で働いていたんですが、1970年、結婚したばかりの郁子と夫婦二人で家業に入り、立て直すことを決意して、それから40年以上が経ちました。

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―唐紙は実際どうやって作るのですか?

千田:創業以来、代々受け継がれる文様を彫った板木に、接着剤となる布海苔を混ぜた絵具をのせ、上から和紙を置き、手のひらでそっと押して、和紙に文様を写し取ります。半分めくって様子みながら、また絵の具をのせて、そっと押して。重ねるとふっくらした摺り上がりになるんです。唐長の唐紙は文様がふっくら浮かび上がり、襖に使っても閉塞感がなく、奥行きがあるように見えると言われています。1枚の襖は12枚の唐紙を貼り合わせて作るので、板木の文様は、上下、左右で柄がつながるようになっています。1978年から3年間かかった桂離宮の昭和大修理では、襖、壁の桐紋唐紙制作責任者として従事したんですが、その時はのべ3000枚以上の唐紙を使用しました。

karacho12絵具にほのかな輝きを添える雲母と布海苔を加えて混ぜる。karacho11ふるいと呼ばれるガーゼを張った道具に刷毛で色を塗る
karacho10ふるいを板木の上に置き、文様に色をのせる。karacho9板木に和紙をのせ、手のひらでそっと押し、和紙に文様をうつす。


唐紙の唐長は今や全国に知られる存在に。

―襖や壁紙に使われていた唐長の唐紙が一般に広まったきっかけはなんだったのでしょうか?

千田:きっかけはポストカードですね。ポストカードは30年前から作っていて、展覧会では販売はしていたんですが、20年前から本格的に作り始めました。当時、デザイン専門学校に通う19歳の娘に「蔵にある板木をなんでも使っていいから好きにポストカードを作ってみたら」と、言ったんです。そして100種類のポストカードができあがり、知り合いから口コミで広がり、銀座の伊東屋さんにも置いてもらうようになって。14年前には工房の一角に小さなショップを構えました。そこからは雑誌に取り上げられたり、唐紙を使ったインテリアを提案する唐長インテリアサロンを開いたり、一般の方にも知ってもらえるようになりました。

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ーUA六本木ヒルズ店がオープンする際、ラッピングに使用するスペシャルなペーパーを世界中で探していたバイヤーが唐長さんに出会って惚れ込み、店に置きたいと熱烈にオファーしたと聞いています。それまで唐長の店舗でも、大きな一枚紙での販売はされていなかったのに、なぜオファーを受けられたのですか?

千田:ただ紙を卸してくださいってことなら断ってましたけど、洋服のラッピング用にこんな高い紙を売りたいなんて、おもしろいと思って。そして、これまで唐長を知らなかったいろんな方の目に触れてもらえる良い機会だと思い、お受けしました。

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―店では実際、ラッピングよりも、そのまま持ち帰られるお客さまがほとんどだそうですが、それについてはどう思われますか?

千田:店でも「何に使うんですか?」って聞かれることも多くて。ヨーロッパの人のように、日本人も想像力を豊かにして、いろんな方が買って帰って新しい感覚でいろいろに使ってもらっていると思うとうれしいです。

―UA六本木ヒルズ店にはどんな唐紙を卸していますか?

千田:通常の板木より大きいサイズの板木を使って型押しした唐紙です。これは元々、唐紙の小物を作る時にコストをおさえるために作った板木です。20文様あるんですが、大柄だと、切り取る場所によって余白がでたり、大きく印象が違ってみえたりしてしまうので、牡丹唐草や宝尽くし、青海波など、規則正しく並んだ小柄が多いですね。


古いものの良さを伝えていくのが夫婦の使命です。

―唐長は、今後どう展開していくお考えですか?

千田:妻と二人で唐紙の世界に飛び込んだ47年前を思い出し、原点回帰。唐長インテリアサロンを閉め、工房にもたくさんスタッフがいましたが、今は二人でやっています。工房に併設されたショップも、3年前から妻の名前をとり、唐長IKUKOに改名しました。

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―郁子さん、唐長IKUKOとはどのようなショップですか?

郁子:私一人でやっているので、大体は午後から開けますが留守もあって、来店前に電話で問い合わせてもらってます。ショップに足を運んでくださった方には、唐長の美意識を自分の口で伝えていきたいと思っています。そして、インテリアサロンの方でやっていた唐紙を使ったインテリアや小物も、引き続きこちらで提案していきます。
昨年は、福の風を招くものという思いを込めて、新作“左うちわ”を作りました。襖は屏風を注文すると高額になりますが、うちわなら暮らしに手軽に取り入れられるでしょ。また、Thanksと書かれたカードも展開しているんですが、花やプレゼントに添えたり、唐長文様がいろんな方に行き渡ることが次世代に繋がることになると思っています。

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―創業400年に向けて、考えられていることはありますか?

千田:創業400年を迎える6年後、日本だけでなく、ヨーロッパでも展覧会をしたいと思っています。現在は、展覧会の実現に向けていろんなプロフェッショナルの方にご協力をしていただいてます。例えば、知り合いの大学教授が文様のルーツを研究してくださっていたり。
47年、夫婦2人、暗中模索でやってきましたが、これからも時代に流されず、それでいて、いろんな視点を持ち、かっこいいことをやっていきたいですね。現在、長男の息子は、別にアトリエを構え、伝統的な唐紙作りから建築プロデュースまで幅広い仕事をしていて、娘はパートナーとKIRA KARACHOというブランドをプロデュースしているんですが、子供たちにも私たち夫婦が唐長をどう伝承し、普及するかを見て感じ取ってほしいです。

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