ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること

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  • ヒト HITO
  • 「海の魅力、教えてください」
    プロサーファー・牛越峰統さんに会いに。
  • 2017.07.14 FRIDAY

「海の日」が施行されてから、今年で早21年。「海の恩恵に感謝するとともに、海洋国日本の繁栄を願う」ことがそもそもの趣旨なのだそう。そこで「海が人生の学校だった」と語るプロサーファー、そしてJPSA(一般社団法人日本プロサーフィン連盟)理事長も務める牛越峰統さんを訪ねて、千葉県の一宮町へ。365日海とともに生きる、正真正銘“海の男”に“海愛”をたっぷりと語っていただきました。さて、今年の海の日は7月17日。あなたはどう過ごしますか?

Photo:Lisa Mogami
Text:Maho Honjo

初めての海で、そのバイブレーションにしびれてしまった。

―牛越さんがサーフィンを始めたのは中学一年生、13歳のときだったとか。

当時はまだサーフィンがブームになる前で、だれよりも早く先頭を切りたい一心で始めました。そしていざ、初めて海に入ってテイクオフして立てた瞬間、もうそのバイブレーションにしびれてしまった。「僕はこれでごはんを食べていく」と瞬時に思ったのを覚えています。

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―育ったのは東京の調布。海まではどうやって?

地元の駅からはるばる小田急線に乗って、それこそ“サーフトリップ”です。今みたいにSNS動画でハウツーを学べるわけでもなく、2冊ほどある専門誌に載っているのはかっこいい写真ばかり。先に始めていた兄がもっていた本を読みながら、必死に習得していきました。

―その後、10代でハワイやオーストラリアなど世界中を巡っていますね。

人生のなかで、かなり濃厚な時期でした。思い出深いのは、毎年訪れたハワイのノースショア。プロサーファーがシーズン終わりにハワイを目指す中に、アマチュアの僕も入れてもらったんです。トップサーファーも震え上がるビッグウエーブに死に物狂いで向かう日々でしたね。怖いもの知らずの10代だからできたことかもしれません。そしてその体験が今の僕のコアになっています。海が学校で海が先生。失敗はすべて次の試合で活かすための材料になる。17歳でプロになり、ハワイ、オーストラリア、ブラジル、南アメリカ、タヒチ、バリ…ツアーですべてを学んでいきました。


軸があれば、ほかはニュートラルでいい。

―サーフィンを始めた10代から今に至るまで、海とのつきあい方は変わったのでしょうか?

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サーフィンを始めたころは、ワクワクしかない“楽しい海”でしたね。それがプロになって“厳しい海”に変化しました。そして今は…“見守る海”でしょうか。みんなが無事に海から上がってくるかどうか、大会を最後まで事故なく終えることができるかどうか、サーフショップ経営者として、JPSAの理事長として、日々周囲を見守っているという感覚が強いです。実はまだリラックスという感覚にたどり着かないんですよね。もう少し先になるのかもしれません。

―これからはどう変わっていくのでしょう?

うるさい爺さんになれたらいいなと(笑)。というのも海には厳しいルールがあって、遊ぶと同時にそのスキルも伝えたいんです。月一回のビーチクリーンや緊急車両のための駐車スペース確保の声かけなどはもちろん、ビギナーや女性が見えたら目を配って気にかけておく、などの心がけも大事。海に入るなら趣旨を自覚してほしいんです。その軸がきちんとしていれば、あとはニュートラルでいいんですから。

―それは、海以外のシーンでも重要な気がします。

軸がブレるのはよくないけれど、ゆらゆらと揺れるのは必要です。長いものには巻かれたほうがいいときもある。いつまでも尖っていたら嫌われるだけ。向こうが揺れたらこっちも揺れないと怪我しちゃうでしょう。それはサーフィンを32年続けてきたなかで僕自身が学んだことなんですけどね。

―2020年の東京オリンピックでサーフィンが正式種目になり、目の前の釣ケ崎海岸がその会場に選ばれました。

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東京のその次、2024年のオリンピックはアメリカかフランスですよね。どちらも波乗りカルチャーが根づいている国なので、2020年に向けて、そしてそれ以降もサーフィンブームが盛り上がることは間違いない。だからこそ、東京で何を発信できるかはものすごく重要です。その責務を思うと胃が痛くなることも。でもサーフィンを始めて32年。メジャースポーツになって、オリンピック種目になって、自国での開催が決まり、目の前の海でトップライダーが競い合うのを目の当たりにできる。これは本当にラッキーだし、ハッピーだと感じています。

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“いい波”は人それぞれ。自分にとってのいい波を探そう。

―では、サーフィンの魅力はどんなところにあるのでしょうか? まず競技種目としての鑑賞ポイントを伺ってみたいです。

アイススケートと少し似ているかもしれません。制限時間内に難易度の高い技を繰り出して、どれだけ高得点をマークするか(サーフィンは同時に複数の選手が対戦)。たとえば残り30秒で9点差、ゼッケン赤が10点取れば逆転するというシーン。「いい波が来た! このライディングで一発逆転かー!?」とアナウンスが入ったところでどうなるか。美しいターンやエアリアル(空中に舞い上がる技)を見事に決めるのか、もしくは転んでしまうのか。

―選手の技量に加えて、いい波がくるかどうかの運も働きますね。

ひとつとして同じ波はないですから、まさにドラマです。その自然と人間との共演に魅了される人は多いのではないでしょうか。また日本人と、ハワイアン、オーストラリアン、ポリネシアン、ブラジリアンほか国ごとのライディングの違いに注目するのも楽しいし、イケメン、マッチョ、血筋のよさなどキャラクターを見分けて応援するのも盛り上がるはずですよ。

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―なるほど、よくわかりました。では、サーフィンというスポーツ自体の魅力は?

いい波に乗れたときの快感。これに尽きますね。ただ、いい波は人それぞれ。人にとってのいい波と自分にとってのいい波は、各自のレベルで違います。だから上手になると「今日は波が悪い」なんて言葉は出てこなくなる。どの波のなかにも必ずポケットがあって、そこに自分をもっていくだけ。その波のポケットにハマることを僕らは「固まる」と呼んでいるのですが、これが最高に気持ちいいんです。

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―「固まる」とは、どんな感覚なんですか?

言葉にするのが本当に難しいんですけど、ジェットコースターが下降する瞬間、フワッと重力がなくなる感じと言えばよいのかな。下からの風圧と沖からのうねりの重さのなかに人間がスパーンとハマる。自然の動きに自力の速度がハマった状態なので、真空状態というか、宇宙空間というか、いや宇宙に行ったことないですけど…(笑)。自分を支えるものは何もないのに、自然と固まっている感覚。これが摩訶不思議で、病みつきになるんですよ。


海は挑戦の場であり、リセットする場でもある。

―ズバリ、牛越さんにとって海とはどんな存在でしょう?

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難しいけれど…ひとつは「挑戦」ですね。やっぱりサーファーですから。そしてふたつめは自分をリセットできる「フィルター」のような存在です。沖に出るとき、波の下に潜るドルフィンスルーという技があるんですが、海に入って一発目のドルフィンスルー直後、ザバーッと海面に顔を出したときの気持ちよさといったら! 体中の毛穴が全部開いて、全身の汗が洗い流されて、思わず武者震いしてしまいます。ほら、犬が水浴びをしたあと体をブルブルと震わせているあの感じ(笑)。それが場所によっては水がクリスタルカラーだから、なおさら気持ちいい。自然が織りなす神秘的な美しさです。

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―世界中を巡ってきた牛越さんのお気に入りの海、印象深い海を教えてください。

波でいえば、ハワイが世界でいちばんです。それもノースショアのワイメアベイ。波の高さは電信柱ぐらいの壁で、この波を求めて世界の野獣が集う聖地。いまだに僕が憧れるポイントでもあります。あとロケーションでいえば、チリが印象深いですね。ゴツゴツとした大きな岩があって、広い海に長い波が割れていて、それでいてどこか砂漠っぽい風景もある。サーファーも滅多に見かけない、自然が多く残されたプリミティブな海でした。

―そんな牛越さんが選んだのは、ここ一宮町でした。

自分が17歳のときに初めてアパートを借りた場所であり、太平洋に面した外房で365日波に恵まれる、今やサーフィン界の道場と呼ばれる場所です。親となった僕ら世代のサーファーが、子供にサーフィンを教えるためにファミリーで引っ越してくるというケースも増えていて、子供たちが朝と夕方に海に入っているのを見ると、自分がやってきたことが少しずつ実を結んでいるのかなと感慨にふけることも。波が素晴らしい分、台風も直撃するわけでいいことばかりではありません。でも僕にとってはここが日本一。これからもこの土地に住み続けて、海と、海に関わる人を見守っていきたいと思っています。

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