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  • 木地師の集団移住から450年。山中漆器の今。
  • 2017.03.30 THURSDAY

松尾芭蕉をはじめ、多くの文人が愛したという石川県加賀市にある山中温泉は、温泉だけでなく、漆器の一大生産地としても知られる地。山中漆器の最大の特徴は、木地の美しさにあると言われますが、その技術がどのように生まれ、現在まで育まれているのか、漆器完成までの工程、その美しさの理由に迫ります。

Photo:Kousuke Matsuki
Text:Noriko Ohba

風情ある温泉地で育まれた、伝統の技。

漆器の一大産地として知られる石川県ですが、“山中漆器”が生まれたのは…約450年前、なんと安土桃山時代にまでさかのぼります。その歴史は、ろくろを使って木工の器をつくる職人“木地師”(きじし)から始まりました。全国の森から森へと、良質の木を求め移住していた木地師の集団が、ここ山中温泉の上流に移り住んだのです。山中漆器は、漆を塗る土台となる木地を量産し、またその質のよさが知られることで発展してきました。

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今回、山中漆器を知るために最初に訪ねたのは、「漆工房 大島」。四代目の大島太郎さんに、漆器の特徴について伺うと「山中漆器は、木の切り方にも特徴があるんですよ」と。「通常は、伐採した樹を木目に沿って切るのですが、山中では“堅木取”(たてきどり)といって、樹を輪切りにして、お椀をつくっていきます。堅木取は、真ん中の芯は外して使う贅沢な切り方ですが、その分強度もあり、ゆがみも少ないんです。見てください、こんなに薄く、透けてみえる繊細な皿も熟練の木地師はつくることができます」。

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また、山中漆器は6つある全行程が“完全分業”でおこわれているのも、その昔から変わらずに守られてきたこと。①材料となる木を木取りし、荒挽きをつくる職人②木地を挽く木地師③下地をおこなう職人④拭漆仕上げをおこなう職人⑤刷毛等で漆を塗る塗り師⑥蒔絵や箔の加工をする職人。ひとつの技術を何十年もかけて究めていき、それぞれの工程の匠たちによって仕上げられ、山中漆器が完成するのです。

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工房内には、ご飯椀、汁椀、おちょこや鉢、茶筒やお盆…大小さまざまな器が並んでいます。そこには、「漆工房 大島」定番の人気漆器『コットン』の姿も。「コットン素材の服のようにふだん使いしてもらえるよう、また綿花のようなやわらかな表情に仕上げたことから三代目の父が名付けました。数年経って小さな傷などが入っても塗り直しできます。先日は『コットン』を20年近く使っているというお客様から直しの相談があって、大切に長く愛用してくださる人がいて、感動しました」と大島さん。

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“木地の山中”と称される理由。

山中には、ろくろ挽きの名手が多く、木地師たちの技術の高さは日本随一と称されることも。2番目の工程「ろくろ挽き」がおこなわれている「木地工房 佐竹」へ木地師を尋ねました。工房では、二代目佐竹一夫さんと三代目佐竹巧成(よしなり)さん、そして修行中の木地師が真剣な眼差しで作業をしています。

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回転するろくろに対して横向きに座るのも山中の特徴。横からカンナを当てることで、“加飾挽き”(かしょくびき)がしやすくなるのです。加飾挽きとは、木地の表面にカンナや刃物などで装飾的な模様をつける技法のこと。等間隔に細い線を入れる“千筋”などの代表的な模様を含め、その数はなんと20種類以上。この加飾挽きの豊富さ、技術の高さこそがほかの木地の産地に追随を許さない、山中漆器の特色でもあります。

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削り終えた木屑に囲まれ作業する木地師、そこに置かれたカンナは、すべて自ら鍛冶し、つくりあげたお手製のもの。自分の体型、手に合うカンナをつくる。道具づくりから木地師の仕事は始まるのだそうです。なめらかな手元、刃を入れると瞬く間にするすると模様ができあがっていく様、いとも簡単に挽いているように見えますが、その動きはとても複雑。

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地下のモーターとつながった足元の2本のペダルで、ろくろの正逆や回転速度をコントロールしながら、上半身は鉋の刃先に集中。これらの身のこなしを体に入れ、かつ、感覚を研ぎすましながら流れるように刃先を入れるには、膨大な時間をかけて量をこなす経験が必要。

1日の作業時間は、朝8時から休憩を挟みながら夜11時まで続き、休日も予定のない限り木地づくりを行っているのだとか。そのモチベーションを三代目に尋ねると「もっとうまくなりたい、それだけです」とひと言。「19年間毎日ここに座って、少しずつ手の感覚が鋭くなりましたが、それでも毎日道具や技術のことをまだまだ模索しています」。

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深みと艶。塗り師の熟練の技が光る。

木地師によって挽き終えた器は、いよいよ塗りの工程へ。漆を木地によく染み込ませ、木地を固めてから、何度も研ぎと下地をおこない、塗師(ぬりし)によって、漆を塗る工程を経て完成へと近づきます。

塗師として60年以上のキャリアをもち80歳の今も現役で活躍する清水郁男さんのもとを訪ねました。工房では、息子の清水一人(かずと)さんが下塗りの作業を、郁男さんが仕上げの上塗りを行っています。

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下塗りでは、黄土を粉にした地の子や米のり、漆を混ぜた“地漆”を塗り、器に強度をもたせますが、呼吸をしている木は、湿度や気温によって漆の吸い込み方も変化するそう。手から伝わってくる繊細な感覚を頼りに、均一に漆を塗るのも熟練の技。塗り終えると、チリやホコリなどゴミがないか、目をこらしてチェックし、ゴミは極細の棒でひとつひとつ取り除いていきます。これらの緻密な作業をこなす高い集中力。「塗り始めたら無心で塗るだけです」と、一人さん。

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向かいでは、父の郁男さんが、漆を温め、なめらかな状態にしています。温めた漆をゆっくりと絞ると漉(こ)し紙から、とろりとろりと朱色の液体が落ちる様子は…思わず魅入ってしまう美しさ。「漆の樹の樹液は、はじめ真っ白なんだよ、酸化して少しずつ茶色くなっていくの。よう覚えとき」と、郁男さん。

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漆についてはもちろん、15歳から修行したときのこと、家族のことなど、いろいろな話を穏やかに楽しそうに語りながらも、目は鋭く刷毛の先を見つめ、手は機敏に動き、次々と美しい赤色に塗られていきます。下塗りも上塗りも一度で終わらず、この作業を何度も繰り返したあと、ムロのなかで湿度を与えながら乾かし、いよいよ最終工程の文様や箔を入れる作業へとバトンを渡します。

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使うほどに愛着を増し、くつろぎや温もりを感じる山中漆器。今回尋ねた工房で間近に見た木地の繊細さ、漆の艶やかさ…山中漆器の美しく静かな佇まいの影には、それぞれの工程に取り組む職人の技や想いが何重にも合わさっていることがわかりました。450年前にこの地に伝わった漆芸は、大切に育まれ、今日まで伝わっているのです。食事の時間を豊かに彩る漆器の美しさを、一度手にとって感じてみてください。

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Special Thanks:漆工房 大島
木地工房 佐竹
清水漆工房

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