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  • ユナイテッドアローズ小山雅人が行く。山形産ニット製作の現場。
  • 2016.10.31 MONDAY

山形県のメリヤス業は、戦前に盛んに行われた軍手や靴下の製造がベースになっています。天然林がなだらかな山容を描き、最上川をはじめとする数多くの清流を有すなど、繊維業の発展に欠かせない、自然と取り合わせの地理条件も大きな影響を与えました。蚕糸業の伝統があり、編機をもつ工場が多い特徴がありました。戦時中に政府から羊の飼育を奨励されてから、紡績した糸を大きな繊維企業に売るスタイルが定着し、メリヤス、つまりニット業が発展しています。奥山メリヤスの設立も、そんな勃興の最中であった1951年です。ここには、数え切れないOEM生産を請け負ってきた歴史と高い技術、それをかたちに変えるセンスがあります。ユナイテッドアローズのニットが生産されているものつくりの現場を、チーフデザイナーの小山が訪ねました。

Photo_Jun Okada[BE NATURAL]
Text_Masayuki Ozawa

求められるメイド・イン・ジャパンを目指して。

 奥山メリヤスの高いポテンシャルを深く知るきっかけになったのは、2013年にスタートした「バトナー」のニットでした。デザイナーは、ここの三代目である奥山幸平さん。「バトンを継ぐ者」ということばが由来の通り、先人が築き上げ、継承してきた技術の高さをどう引き継ぐべきか。東京でのアパレル経験と、10年以上もの職人経験から、奥山さんは導き出しています。

小山:展示会に伺ったときに、1型にサンプルを6回も7回も作ると聞きました。ニットの完成度の高さは、時間をかけた分だけのニットの顔つきや膨らみ、つまり表情の違いに表れています。ユナイテッドアローズもきちんと作られ残っていく本物の洋服をお客様にお届けしたいという思いをずっと追求し続けています。奥山さんにお願いすれば、理想のニットが完成するのでは、と希望をふくらませました。

奥山:戦後の日本のメリヤス業を支えた多くの生産が海外に移るようになると、日本の工場には売れるタイミングをどれだけ逃さず、安く早く作れるかが求められます。技術や編機など、私たちの財産が必要とされなくなっている現状において、メイド・イン・ジャパンの本当の意味を考えるようになりました。いつの間に省かれてしまった本来の製法にこだわり、自分たちにとっての、きちんとしたセーターを作ろうってことで、2013年に「バトナー」を設立しました。

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コミュニケーションが生む、表情のあるニット。

奥山メリヤスが考える本来の製法とは、成形編み。胴体、袖、リブなど編み立てた部位をリンキングと呼ばれる縫い合わせを行います。パーツ同士の編み地のループを目刺しながら繋ぎ合わせる作業はとても細やかで、熟練の職人を要します。つまり非効率です。しかし縫い代がないため、仕上がりはすっきりと見え、伸縮性に優れ、着心地が違います。繊維が伸びるのではなく、編みが伸びる感覚です。

奥山:人件費とスピード感を考えると、一枚がとても高額になってしまうため、年間を通しての安定した発注が得られません。しかし仕事があれば、技術が上がり、人が育ち、継承されていく。その当たり前で難しいサイクルを実現するために「バトナー」があります。製品を見てもらえば、奥山メリヤスがどこまでこだわったニットを作れるのかが、わかって頂けると思います。

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今でこそ工場の数は少なくなったが、それでも紡績から染色、加工、仕上げなど、生産に必要なインフラが、車で15分圏内に揃っています。奥山さん自らがぐるぐると回り、職人とコミュニケーションをとることで、仕様書だけでは伝わりにくい細かいニュアンスが伝えられる。そのメリットは、スピード感や流通のコストだけでなく、品質に大きく影響しています。

小山:工程が注意深く進んでいくことで、製品が輝くんですね。どこかが欠落していると、たとえ目に見えないものでも「なんかいい」という直感に影響します。ものの価値よりも高く見えるもの。それはぱっと見ではわかりにくい、裏側の技術が必要です。それがニットでは編みのテンションや仕上げ、風合い、着心地に直結している。ものがあふれているいまの世の中では、お客様の方がクオリティをとても大事にしています。つまり商品を明確に提示できることが求められています。

たくさん作って広げていくことは難しくても大切なピースを作っていきたい。その思いから、奥山メリヤスで、オリジナルのニットの企画がスタートしました。


毎日着られる、ニットのマスターピース。

小山:工場を案内していただいて感じたことは、揃えている機械の幅が広いことです。つまり量産向きではなく、少量のものつくりにこだわれる環境があるということです。

ハイゲージ用の自動編機をたくさんそろえている工場は、それ専門の生産体制が個性になります。しかし機械を使い分けられる奥山メリヤスは、完成形のイメージに基づいて、仕上げや編み、糸の選定と、ものつくりを逆算的に考えることができます。糸と編立てと着心地の関係を知り尽くしている奥山さんが提案する「バトナー」のニットは、発注側のイメージを具体化させるフィルターという役割も担っています。

奥山:今回のニットは、とにかくマスターピースを作りたいというユナイテッドアローズさんのリクエストがありました。「バトナー」でも展開しているブリティッシュ調やミリタリー調のニットを見ていただき、それをベースにどう都会的に落としこむかを、糸まで戻って考えています。あとは編み目が美しく見えるように、ケーブルが交差するポイントは特に調整を重ねています。

小山:男らしさはあるものの、カサカサしない、毎日着たくなるようなニットです。地元で作られている糸を使われているそうで、メランジ調のチャコールは綺麗ですし、ネイビーも明るいブルーがブレンドされています。見た目に立体感がありますし、同じ畦編みでも、一般的なニットより軽さを表現していただいています。

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訪れた日は、来シーズンの商品の打ち合わせ日でもありました。半袖ニットにベーシックを超えた価値を高めたい小山のリクエストは、編みで表情を生んだニット。「バトナー」でもある、コットン100なのに麻のような涼感があり、かつ伸びにくい、ダレにくい工夫を加えたサマーセーターです。

小山:あとは個人的に気になっている、かすり糸と何かを組み合わせて生まれる、不思議な色のニットを作りたかったんです。素材感と色の両方を、奥山さんと一緒にこだわることができれば、他にはないオリジナルができると思っています。

奥山:暖色の糸をプレーティングすることで、どこか曖昧で、メランジ調になり、かすりの見え方も新しいものになりそうです。

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職人の高齢化による、継承問題も見据えて。

小山:オリジナルに求めるニットの価値が、ここ近年で大きく変わっています。とくにものがなかった頃は、インポート主義というか、外から入ってくる感覚を求めていました。でも今はすべてがニュートラルで、インポートもドメスティックも古着も同一線上にあり、着てどう見えるか、どう感じるかが大事。お客様は、インポートとかオリジナルとかではなくきちんと作られているニットを求めています。

奥山:イタリアやイギリスは、ファクトリーがブランドを持っていて、高級メゾンの生産を請け負っています。自分たちのやりたいこととビジネスが明確で成り立っている。下請け文化が長く続いた日本には、工場が何かを発信する歴史はありませんでした。

小山:ロロ・ピアーナやエルメネジルド・ゼニヤ、ジョン・スメドレーがその典型例だと思います。そういう意味では、奥山さんがやろうとしていることは新しいというか海外的というか、世界基準のスタンダードですよね。

奥山:私たちの場合は、その裏にも地域雇用や職人の継承の問題もレイヤーされています。ファッションを生み出している工場ですから、作っている職人が楽しめないと、人をハッピーにはできないと思います。最初に戻ってしまいますが、自分が着たいと思えるものを自分で作っている感覚は、仕事においてとても重要です。その上で生活が成り立っていれば、技術も自然と継承されていくと思うのです。

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