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  • ヒト HITO
  • 「乳がん」という病気を健康な人に知ってもらうための活動とは。
  • 2016.10.01 SATURDAY

「ピンクリボン」という言葉を知っていますか? これは「乳がん」を知ってもらい、早期発見の大切さを伝えるためのシンボルマーク。10月はピンクリボンのキャンペーン月間として世界中で浸透しており、㈱ユナイテッドアローズもピンクリボンの活動を行っています。日本における乳がん啓発運動の創始である、認定NPO法人乳房健康研究会の事務局理事・髙木富美子さんを迎え、今私たちが知るべきこと、できることを教えていただきました。

Photo:Lisa Mogami
Text:Yu Fujita

ピンクリボンはアメリカから始まった「乳がん」のシンボルマーク。

―最初に、「ピンクリボン」をまったく知らない人のために、このマークが何を意味するのかを教えていただけますか?

ピンクリボンは、乳がんのことを正しく知ってもらうために使われているシンボルマークです。この運動は、1980年代、アメリカから始まりました。早期発見すれば治るがんなので、検診を受けましょうというメッセージでもあり、乳がん患者さんと共に寄り添える社会にしましょう、といった意味合いも含んでいます。

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アメリカには「Awareness Ribbon」といってリボンをシンボルにして思いを託す習慣がありまして、イエローリボンは戦地に赴く家族の無事の帰還を祈るために使われるほか、レッドリボンはエイズの認識と患者支援などのシンボルとして、用いられています。同じ流れで「乳がん」を意味するシンボルマークとしてピンクリボンがあるんです。多くの人の目に触れるという意味でも、マークがあることはいいこと。日本においては、1990年代からピンクリボンを使った呼びかけが始まりました。

―日本におけるピンクリボンの活動は、2000年に乳房健康研究会が発足したことから始まるんですね。

「ピンクリボン」を掲げて乳がん啓発活動を主目的とした団体は私たちが最初になりますが、それよりも前には、乳がん患者さんの団体は日本にもありました。乳房健康研究会が設立された目的は、「健康な人たちに乳がんを知ってもらうこと」。乳がんにまったく関係がない、と思っている人に働きかけることが使命です。そこが、乳房健康研究会がそれまで日本にあった団体との役割の大きな違いです。

―髙木さんは発足当初からのメンバーですが、そのときの一番のミッションはどういう内容でしたか?

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「もっと乳がんを世の中の人に知ってもらう」という、あたり前すぎる話でしたね。今に比べると、悲しくなるぐらい乳がんや乳がん検診の認知率は低かったんです。でも、そのころですでに年間3万人が新たに乳がんと診断され、30人にひとりがかかる病気と言われていました。私はそれを聞いたときに、「すごい確率だな、だって学校のクラスでひとりはかかる病気ってことでしょう?!」と思い、「他人事にしてはいけない病気だ」と思ったことを覚えています。


病院の中で待っているだけでは、救える命も救えない。

―髙木さんがそこで危機感を覚えたからこそ、活動に力が入ったんですね。

乳がんの「早期発見」と「早期治療による乳がん死亡率の低下」という活動目標は今も実は変わらないのですが、当時はもっとその思いが切実でした。なぜなら、そのころ都内の病院には、「なんでこんなになるまで放っておいたの?」と医者が嘆くような乳がん患者さんであふれていたんです。2000年に私たちの活動が始まったタイミングは、マンモグラフィ検診が乳がんに対して最適な検査方法であることが、国からガイドラインが出された時期と重なります。ですから、とにかく、ピンクリボンのマークを見たら「マンモグラフィ検診に行かなくちゃ!」と思ってもらうことが、重要な使命だと感じていました。

―乳房健康研究会発足から16年目を迎えた現在のミッションを教えてください。

現在も、乳がんに関して科学的根拠のある検診はマンモグラフィしかありません。ですので、その検診を人々に勧めることですね。今は受診率が40%程度。それを50%から70%ぐらいまで上げない限りは、乳がん死亡率は下がりませんから。
それから、マンモグラフィ以外にも効果のある検診方法もデータが出つつあるので、それを後押しする活動を進めること。また、乳がんにかかる人の絶対数が増えてきているので、乳がんになった人にどう寄り添い、支援していくのかも私たちのこれからの活動のひとつになっていくと思います。

―ピンクリボン活動の認知率や乳がん検診の普及なども、頼るところは口伝え、いわゆる「口コミ」であると髙木さんは考えていらっしゃるそうですね。

口コミだけだとは思っていません。やっぱり新聞やテレビで取り上げられたりすると、反応は大きいんです。ただ、人間が考えを行動に移すときには〝背中を押す人〟の存在がとても大きく影響するんですね。実際、私たちの調査でも4割以上の人が、知人や友人から直接言葉をかけられたことで乳がん検診を受けることになったという数字があります。
最近では、芸能人の方が乳がん患者であることをカミングアウトしてくださることも、皆さんが乳がんに対して関心をもつきっかけになっています。有名・無名問わずブログで自身の体験を綴られる方も増えました。それで乳がんのことを知る人も今は多いです。

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髙木さん著書「ピンクリボン咲いた!」。ピンクリボン活動や乳がんについて、鮮やかに綴られている。


ピンクリボンアドバイザーが育つ社会に。

―髙木さんが信頼を置く、口コミによる普及活動の具体例のひとつが2013年から始まった「ピンクリボンアドバイザー制度」ですね。この制度を説明していただけますか?

乳がん検診を人にすすめる役割を担う人のことを指し、乳房健康研究会が主催する認定試験をパスした人は、正式にその資格が認められます。この制度をつくるきっかけのひとつが、個人ブログやホームページに科学的根拠のない話がはびこることになりますね。もしかしたら、記事を鵜呑みにする人もいるかもしれない。発信する人が正しい知識を持っていてくれることが大切だと、ソーシャルメディアがますます発達する今だからこそ感じていることです。

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それから、ピンクリボンの活動に協賛してくださる企業の担当者にも正しい知識をもってもらえれば的外れの活動にならないし、当事者意識も生まれます。
また、隣の人が乳がんになっても、正しく認識していればヘンな目で見ることもないし、必要以上に同情することもなく、思いやりがかけられる。乳がんにかかった人たちも暮らしやすい社会に貢献できることに願いを込めて、この制度をつくりました。

―今年12月で認定試験も5回目となります。これまでの手ごたえはどうですか?

主催者の自分が驚くのも恐縮なのですが、こんなに受験してくれる人がいるとは思いませんでした。受験料も必要だし、国内10か所ほどでしかまだ試験会場が用意できないし、それでも興味をもってくださる人がいた。認定されても活動内容はボランティアになるにもかかわらず、すでに6,300人もアドバイザーが認定されています。本当にありがたいことです。私としては、「これで乳がん検診受診率が上がらなくて、どうする!」と叱咤されている気分です。

―もし周囲に乳がん患者がいたら、私たちは何にいちばん気を使うことが大事でしょうか?

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乳がんの種類も症状も、「ひとりひとり違う、必ずしも一緒ではない」ということです。ピンクリボンアドバイザーの使命は、患者さんを適切な医療機関につなげることを第一に伝えています。

相手が患者といっても、究極は個人対個人の関係になるので、その患者さんのことを考えて、行動に移すしかない。ウィッグを付けて会社に出社してきた方がいたとして、気づかないふりをしてあげるのがいいのか、「あら、おしゃれじゃない?」と声をかけてあげるのがいいのか、それはその人によりますよね。私が言えることは、多少なりとも知識があれば、会話にも役立つことが出てくると思うんです。「ウィッグを選ぼうと思っているの」と言われて、「人工毛と天然毛のタイプがあるらしいよね?」といった適切な理解で会話が続けば、もっといい。そういう意味では、ピンクリボンアドバイザーという役割は、今後、会社や地域社会にさらに必要とされると思っています。


60歳を過ぎたからといって、乳がん検診からの卒業はありません。

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―最後に、乳がん検診について、基本事項を確認しておきましょう。検診を受けるべき年齢から教えてください。

20代からセルフチェックはぜひ行ってほしいのですが、エックス線が体に及ぼす影響を考えると、マンモグラフィ検診は40歳から、と私たちは勧めています。ただ、血縁に乳がんになった方がいる場合や、リスクが高い方は早い段階から乳腺の専門医を見つけ、検診計画を立てていくと良いですね。

―そして、いつ検診を受けるのをやめればいいですか?

ここが誤解の多いところですが、実はいま、60代の乳がん発生率が高いんです。いわゆる「閉経後」ですね。ですから「乳がんに卒業はない」と私は強くお伝えしたい。乳がん検診は女性であれば高齢になっても受け続ける必要があることを忘れないでください。

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