ヒトとモノとウツワ ユナイテッドアローズが大切にしていること

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  • 制作者たちが物語る「24/7」誕生秘話。
  • 2016.08.29 MONDAY

いまからちょうど一年前の2015年秋冬、女性に向けたシューズブランド「ボワソンショコラ」から「24/7(トウェンティーフォー・セブン)」というラインがデビューしました。このラインのアイテムは、型通りのプロダクト・メイキングのプロセスを通過せず、異なるルートを辿って生まれてきたもの。それはまるで、自らいばらの道を選んで進むような過酷な挑戦でもありました。どうしてその道を選んだのか? その道筋はどんなものだったのか?ブランドのディレクターである吉澤尚美さんと生産管理を務める峯岸保晴さんに、「24/7」の誕生前夜、そして今後のことについても語ってもらいましょう。

Photo:Jun Okada
Text:Yuichiro Tsuji

お客さまとの信頼関係を強くするために進んだ道。

ー「24/7(トウェンティーフォー・セブン)」とはどんなコンセプトを持ったラインなのか教えてください。

吉澤:ヒールのコレクションになるのですが、履いたときの足当たりのよさ、履き心地のよさ、歩行中の歩きやすさ、そしてその持続性を追求したラインになります。「ボワソンショコラ」の強味である身近な価格帯はキープしつつ、“ヒール=疲れるもの”というこれまでのイメージを覆し、なおかつ長く愛用できるものをお客さまにお届けしているんです。

ー立ち上がりは2015年の秋冬からですが、準備はいつ頃からスタートしていたんですか?

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吉澤:2014年の夏頃から立ち上げに向けての具体的な作業がスタートしました。洋服が半年でシーズンを区切るのに対して、シューズは生産の都合上1年という長いスパンで生産計画を立てます。「ボワソンショコラ」が2013年にデビューしてちょうど1年が経過し、今後どのようにしてブランドを運営していくか、2014年の夏はそれを決める大切な時期でもあったんです。

ー2014年といえば、男女問わずスニーカーを履く人が増えてきたときでもありますね。

吉澤:そうなんです。それはつまり、それまでヒールを履いていた人たちがスニーカーの快適な履き心地に慣れてしまったとき、とも言えます。社会全体では、大手食品メーカーのずさんな生産体制があらわになり、消費者の方々がものを買うという行為に対して疑心暗鬼になってしまった年でもあるんです。

ー企業と消費者のあいだの信頼関係が崩れてしまったと。

吉澤:そうですね。そういった社会潮流を受けて、私たちは今後なにをしていくべきなのかを真剣に考え抜きました。その結果、履き心地がよく、なおかつサスティナブルな商品をつくっていこうと話がまとまったんです。自分たちにとって都合のいいビジネスをするのではなく、お客さまとの信頼関係を強固にするための道を歩もう、と。決して簡単な道のりではないということは分かっていたのですが、お客さまにとって、我々にとって、そして社会にとって、それが最善の選択であると考えたんです。

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まだ誰も手を加えていないところに着目をする。


ー「24/7」の方向性が決まったのち、作業はどんなところからスタートしていったんですか?

吉澤:足当たりのよさと履き心地の快適さを最優先に考えたとき、靴の本底をカップ状にして吸収力のあるものをつくらなければいけなかったのと、その上に敷くインソール(中敷)もクッション性に富んだ素材を使用して、なおかつ足を包み込むような形状にしなければいけないということになりました。そうと決まったら、その制作をすべて生産管理である峯岸に丸投げした感じです(笑)。

ー峯岸さんはそのオーダーを受けて正直どんなことを思いましたか?

峯岸:最初に話を聞いたときは、正直頭を抱えてしまいした(笑)。お店がまだ3店舗しかない関係で製造ロットが少なく、いちからオリジナルでつくるとなるとコストの面で不安材料があるのと、商品をつくって具体的なカタチにするまでの時間も限られていたので、立ち上がりまでに納得のいくクオリティーに仕上げられるのか、という面でも心配がありました。

吉澤:クッション性のあるインソールを靴に入れるというのは、業界的にはあたり前に行なわれていることなんですが、ヒールで中敷の立体性や保形性を追求しているところはまだなかった。だから研究の余地があったんです。それをうまくカタチにするのが峯岸の仕事で。

ー研究というのは具体的にどんなことを?

峯岸:まずは履き心地がいいと言われている靴を何型かピックアップして女性スタッフたちに2ヶ月間履いて試してもらったんです。それで、それぞれの靴のいい所と悪い所をリスト化して、その情報を「24/7」のパターンに落とし込むという作業を行いました。

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吉澤:それで、もともとお付き合いのあるメーカーさんに依頼をして中敷をつくっていただいたんです。さきほど話したように、すぐに潰れてダメにならないように保形性の強い材質を採用して、なおかつ足を包むような立体的なものを。あとファッション的にヴィジュアルも美しく仕上げるようにオーダーをしましたね。

ー地道な作業が必要だったんですね。

吉澤:そうなんです。あと、細かな話になってしまうんですが、ヒールの履き方って世代によってちがうんですよ。若い世代のお客さまは、フラットな靴に履き慣れているのでカカトに重心をかけて歩くんです。だからといって、カカトのクッション性を高めるためヒール部分のインソールを厚くしすぎると、こんどは靴が脱げやすくなってしまう。そうやって出てくる問題を業者さんと一緒に一つひとつクリアしていきながら、製品としての完成度を高めていったんです。


いろんな方々の協力なしにはなし得なかった。

ーいまお話いただいた足入れやクッション性に加えて、靴を履く上ではフィット感に関しても重要だと思うのですが、その部分に関してはどのような考えで制作を進めていったんですか?

吉澤:「ボワソンショコラ」の靴は、基本的に合成皮革でつくられています。だから通常のレザーに比べると、伸縮性の無い素材なのでフィット感に欠け、すぐに伸びてしまうんです。特にヒール靴のかかとをホールドする部分は重要なんですが、通常の合成皮革の靴は短期間で履き口のホールドが弱くなって足が脱げやすくなってしまう。私はそれがすごくイヤなんですよ。だって、それは女性として足元が美しく見えないし、靴としての機能を損なっているということだから。「価格帯が安いぶん、それはしょうがない。伸びてしまったら買い替えてもらう」というのがこれまでの考え方だったんですが、それをやってしまったら本末転倒なんですよね。

ーさきほど話されていた、お客さまとの信頼関係のことですね。

吉澤:そうです。通常合皮の靴ではコストの面で使わないのですが、24/7ではかかとをホールドするために入る芯材を保形性の高いものでお作りしました。これをやらなければそもそも私たちが「24/7」をつくった意味がなくなりますから。当然手間がかかるぶんコストもかかるのですが、長期的な視点で考えるとクリアできる問題だったので、利益は後回しにしてクオリティーを優先させたんです。通常であれば事業部長に「ノー」と言われてもおかしくはないんですが、今回ははっきりとした目的があったのでスムーズに進行しましたね。

峯岸:今回生産を依頼していたのは神戸でも有数の工場で、靴のクオリティーに対して強いこだわりを持っているところなんです。保形製の高い芯材を入れて、踵をホールドさせるという工程は技術的にすごく難しい作業なんですが、すごく丁寧につくってくれました。

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ーなるほど、そうだったんですね。

峯岸:あと、フィット感に関しては木型がキーになってきます。先程の試し履きのデータをもとに我々が特に気を付けたのは、土踏まずのアーチが足を支える設計にするということと、カカトをホールドして脱げにくくすること、それに加えてしっかりと女性らしさのあるシェイプにすること。この3つを気にしながら信頼する木型屋さんに制作を依頼したんです。

吉澤:しかもその木型屋さんは、生産の工場のクセも把握していて、「あそこはこういう風に靴をつくっているから、この部分はこういうカタチにしたほうがいい」というようにプラスアルファの提案をしてくださって。

ー木型屋さんと生産工場の相性も靴づくりにおいては重要なんですね。

峯岸:そうなんです。両者の掛け合いがなければ「24/7」は生まれていないといっても過言ではありません。さきほど話した通り、どの業者さんにも生産ロットが少ないなかでほとんど無理を言っているような状況にも関わらず快く動いてくださって…。インソールの業者さん、木型屋さん、そして生産の工場さん、すべての方々に助けられているなぁと。本当に感謝しかないです。

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完成された靴ではなく、進化する靴。

ーいばらの道を進みながら立ち上げに成功した「24/7」ですが、デビュー後のお客さまの反応はいかがでしたか?

吉澤:お陰さまで順調な滑り出しでした。ただ、お客さまの声はシビアで、私たちが納得していた部分でも「ここをもっと改善して欲しい」といったご要望をいただくこともありました。でも、それはまだ伸びしろがあるということと捉えて、今後の商品開発に活かしていくつもりです。

峯岸:もともと話していたのが、完成形をつくって終わらせるのではなく、どんどん進化していく靴をつくろう、ということだったので、そういった声をいただくのは我々にとって嬉しいことでもあるんです。

吉澤:やり続けるしかないんですよね、たとえそれがどんなに手間のかかることであっても。お客さまのためになることは、私たちのためになることでもあるので。

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ーでは最後に、今後「24/7」をどのように成長させていきたいか教えてください。

吉澤:いまは立体的なインソールを使っていますが、その材質などもどんどん進化させていきたいですね。日々テクノロジーは進化していて、さまざまなメーカーが快適性に優れた材質を開発しているんです。それが身近になったときに、その材質を使った新しいインソールを開発していきたい。なぜなら、そういうものを使ったスニーカーなどを皆さん履かれると思うんです。その快適さがわかったら、古い材質を使ったアイテムを履いてもお客さまにご満足はいただけない。だから、今後はテクノロジーの分野にも目を向けていきたいですね。

峯岸:ぼくも同感です。常に視野を広くもたなければ、時代対応できないですから。安価だからトレンドも技術もひと足遅くてオーケー、というのではなく、リーズナブルなのにトレンドをしっかり押さえているし履き心地も最高だよね、と言ってもらえるのがベスト。いろんなところにアンテナを張って革新的なものをつくり、これまで以上にブランドを盛り上げていきたいと思います。

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